人手不足の春
2017年4月9日05時00分
往年の映画「男はつらいよ」シリーズに欠かせないのが、いつも騒がしいタコ社長である。寅さんの実家の裏で町工場を営み、景気の波にいつも苦労している。高度経済成長の続く1970年代初めの作品では、人手不足に悩んでいる▼「何しろ手がなくて手がなくて」とぼやき、従業員の独立騒ぎに慌てる。新入りになんとか定着してもらおうと、やたらと丁寧に話しかける。「いま暑いですけどね、来年は冷房を入れる予定です」▼タコ社長がいたら、ぼやいたり、慌てたりしているかもしれない。人手不足が全国的に広がっているようで、2月の失業率は22年2カ月ぶりに3%を下回った。日銀の調査でも、人員が「不足」と答える企業が増えている▼旅行会社てるみくらぶが破綻(はたん)して内定が宙に浮いた58人も、引く手あまたのようだ。約180社から「採用したい」との問い合わせが厚生労働省に寄せられたと、先日の記事にあった。「明日から出社しても大丈夫」との話もあるというから驚く。不況期に相次いだ内定切りのような悲痛さは見られない▼かつての就職氷河期。若者を使いつぶす「ブラック企業」の横行。若い人に冷たい経済が、これまではびこりすぎた。仕事を求める人が迎えられ、育てられる世の中でなければ。そこへ進むための好機が、この人手不足であろう▼保育にお金を出したり、勤務地を配慮したりと、従業員の暮らしを考える動きも少しずつ出ている。ワークもライフも見つめ直したい4月である。