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天声人语(2016年4月份)

来源:日语港 作者:日语港 时间:2016-04-30 阅读:10417

 (天声人語)公衆電話の真価

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 15歳の女子中学生が監禁先から逃げ出して救いを求めた公衆電話は、東京のJR東中野駅の構内にあった。「SOS110119そのままダイヤルして下さい」と表示がある▼ブカブカの服にサンダルばきの少女はここから自宅に電話をし、警察に通報した。居合わせた会社員によると、駆けつけた署員が名を確かめたとき、少女は受話器を握りしめたままうなずいたという▼もしここに公衆電話がなかったら――。想像しただけで背筋を何かが走る。電話探しに手間取れば、戻った容疑者に見つかったかもしれない。監視は強まり、事件は長引いただろう。きのう試みに周辺を四方八方歩いてみたが、大人でも公衆電話はなかなか見つけられなかった▼かつては全国に93万台もあった。1984年度を境に減り続け、いまや20万台を切った。東日本大震災では、窮地にもろい携帯電話との違いを実感したが、その後も撤去は続いた▼怪奇小説で知られた夢野久作の短編「鉄鎚(かなづち)」に「電話の神様」が出てくる。受話器から届く声や音の奥を鋭く察する10代の少年のことだ。株価の先行きから男女の機微まで耳で読み、運命をつかむ。昭和初めの作品だが、なるほど昔もいまも電話には人生を変える不思議な力が備わっている▼少女は機を逃さず、公衆電話へ走り、硬貨を入れ、自宅の番号を正しく押した。2年という闇の長さを思えば、その沈着さは一条の光のように映る。「電話の神様」も感心して空から見守ってくれたにちがいない。

 

(天声人語)女性建築家を惜しむ

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 屋根は宇宙船のように丸く、壁は波打ち、柱は恐竜の脚のように節くれ立つ。急死した建築家ザハ?ハディドさんの建物をソウルで見たとき、その威容に足が止まった。直線や直角を排し、自動ドアすら斜めに開いた▼バグダッドの裕福な家庭に生まれた。11歳で建築家を志し、ロンドンで学ぶ。初期には三角形が屋根に刺さったような建物が多い。ドイツの消防署では三角形の位置が低すぎて「消防車が入庫しにくい」と不安がられた▼その後は流線形の作品が主流に。北京の作品は「爬虫(はちゅう)類」、香港では「せっけん」とあだ名がついた。森喜朗元首相が「ドロッと垂れた生ガキ」にたとえた新国立競技場も同じ系譜だ▼斬新な設計ゆえ、激賞されても建てられずに終わる時期が長かった。「アンビルト(建てられない建物)の女王」と呼ばれたが、近年は建築技術が進んで各国で完工を見る▼日本にも足跡を残した。「強い個性にひかれた。建築家というより芸術家でした」と話すのは貸しビル業を営む葛和(くずわ)満博さん(84)。札幌市内のレストランの内装を頼み、1990年に氷と炎がモチーフの斬新な店舗に仕上がったと懐かしむ▼とかく新国立競技場の騒動にばかり目を奪われがちだが、男性中心で欧米の感覚に支配された国際建築界に切り込んだ功績を忘れるわけにはいくまい。イスラム圏の人々だけでなく、建築家をめざす各国の女性を勇気づけた。65歳。目の覚めるような作風とともに果敢な歩みも永く記憶にとどめたい。

 

(天声人語)ふるさと納税の異様

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 これはもう、通信販売のカタログそのものだ。「ふるさと納税」を呼び込むために、ある町が作った「お礼の品」のリストを見た。カニ、高級イチゴ、焼き菓子……。寄付額に応じ、好みの品を選べる。「旬をお届け」などの宣伝文句も▼生まれ故郷や応援したい自治体にお金を移すのがふるさと納税の趣旨だが、実際は返礼品を「買う」に等しい。寄付の大部分は後で返ってくるので懐も痛まない。選んでもらえる品をそろえようと、自治体の競争は過熱している▼ついには商品券やパソコン、掃除機まで登場して、総務省が自粛を求める事態になった。品物がネット上で売買されているのを問題視したようだ。もっとも単なる商品の取引なら、市場で転売が始まるのは自然なこと。起きるべくして起きたといえる▼地元産品を支え、地域の先細りを食い止めたい。そんな自治体の思いは分かる。しかし、降りることのできないゲームを強いられてはいないか。寄付額の多い少ないで「勝ち組、負け組」と言われ、「あの市は、あの品物で稼いだ」などと語られるさまは、異様である▼寄付精神が根付く米国で、慈善活動のベテランから「寄付とは投資だ」と聞いたことがある。お金を出して慈善団体などに期待するのは、企業の将来性に賭けるのと同じだと。そして配当は、世の中が前より少しでも良くなることだ▼5年後、10年後の未来に向けた投資とは何だろう。少なくとも百貨店で商品を物色するような態度からは出てこない。

 

(天声人語)育児の環境、男はどうする

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 北欧スウェーデンで、子育て世代の男性が愚痴っていた。少し前に勤務したフランスの男たちのことが、羨(うらや)ましいという。「あいつら、いいよな」。理由は仕事だけに責任を持てばいいから。「こっちは、仕事と家庭、両方だよ」▼スウェーデンで聞いてみると、保育施設への迎えの時間になると職場からさっと引きあげログイン前の続きる人が目立つ。女性も、男性も。フランスは日本に比べれば男性の育児参加が進んでいる印象だが、北欧はレベルが違うようだ▼育児の環境がひどいとして、問題になる昨今の我が国である。保育の充実を求めて署名運動をするお母さんたちを応援しながらも、どこか違和感を持つ方もおられるのではないか。前面に出るのは働く女性ばかり、お父さんはどうしたと▼女性の活躍の話は男性の働き方の問題でもある。長時間労働を改めなければ、男性の育児参加も女性の仕事復帰もままならない。分かっていてもなかなか改善できない。我が身を振り返っても耳が痛い▼ある企業幹部の話では、長時間働くのは保険でもある。成績が上がらない場合、自分も部下も遅くまで仕事していれば「努力はした」と言ってもらえる。理由は他にもあろうが日本社会に絡みつく問題だ▼スウェーデンでは別の若者から「うちの父親は、家のことは車を洗うくらいだった」とも聞いた。一世代で社会が変わったということか。子育てを応援する上司「イクボス」が注目されるなど、日本もゆっくりだが変化している。加速させねば。

 

(天声人語)つり革を盗む

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 少し前、首都圏のJRや私鉄地下鉄でつり革が盗まれる事件が続いた。操縦部品や銘板などファン垂涎(すいぜん)の品ではなく、よりによってつり革を狙うとは。動機の見当がつかない▼鉄道各社の被害は昨年11月からこの1月に集中している。たいていベルトごと持ち去られた。最も被害の多い東急電鉄の場合、3月に入っても続き、田園都市線など3路線で計223個が盗まれた▼かなりの難事件だと見るのは、月刊誌「鉄道ピクトリアル」の今津直久編集長(59)。「鉄道ファンという線は考えにくい。以前騒ぎになった座席切り裂き事件に近い。強い不満やストレスを抱えた人によるうっぷん晴らしではないでしょうか」▼鉄道装備に詳しい今津さんによると、世界の鉄道は「にぎり棒」中心の国と「つり革」を重視する国に大別できる。日本は後者の代表格で、明治から改良に改良を重ねてきた。古くは丸い輪が主流だったが、1970年ごろ三角形が参入。いまは正三角形と二等辺三角形が首座を争う▼昔は関西と関東で本数も違った。ゆったりした車内が好まれる西は少なめ。大量輸送を志向する東は多め。安全志向が高まるにつれ、つり革密度はどこも高くなった▼〈吊り革をつかみそこねて泳ぐ手はひと日不安をにぎりきたる手〉池谷しげみ。ふだん通りの電車に乗り、いつも通り伸ばした手がふいに泳げば、一瞬だれしも動揺するだろう。地味に見えてつり革は安全の核であり、安心の核でもある。盗まれてようやく真価を知る。

 

(天声人語)安丸良夫さん逝去

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 学生がアルバイトに励むのはもっぱら糊口(ここう)をしのぐためである。81歳で亡くなった一橋大名誉教授の安丸良夫さんもそうだった。先輩から勧められて大学院生時代に軽く引きうけた仕事が生涯の航路を決めた▼週2回、京都?亀岡にある神道系の教団「大本」の本部に通った。70年史を編むよう頼まれた。邪教、怪教と弾圧された歴史を持つ教団だが、開祖の出口なおが残した書き物に引きこまれる。無学無筆の控えめな女性がなぜ神を名乗ったのか、庶民があつく信心を寄せた背景は何なのか。研究の出発点となった▼西洋哲学への憧れは薄らいだ。関心は宗教から百姓一揆、廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)、自由民権運動へと広がる。支配者の思想ではなく支配される側の思想を見つめた▼たどりついたのは勤勉、倹約、謙譲、孝行、忍従、正直、献身、粗食、早起き――。これらを「通俗道徳」と呼び日本社会の近代化を支える背骨だったと論じた。生まれ育った富山?砺波地方に根付いた浄土真宗の教えに通じる価値観である▼自称「不器用で不機嫌」。だが時々の政治問題には臆せず声を上げた。小泉純一郎元首相の靖国神社参拝を批判して「中世以降の日本は敵方も丁重に弔った。自国の戦争犠牲者だけを国が選別して悼むのはおかしい」と訴えた▼東日本大震災の後は、脱原発を求める官邸前デモに自ら足を運んだ。抗議のうねりが政策を変えられない現状を嘆いた。大衆運動の強さ、深さ、脆(もろ)さに寄せる関心は晩年まで衰えることがなかった。

 

(天声人語)花見の幹事

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 きのうの昼すぎ、東京の上野公園では花吹雪が舞うたびに歓声があがった。日本語のほかに中国語や韓国語、ベトナム語が聞こえる。東シナ海や南シナ海と違って、場所取りでもめた様子はない▼夜の宴(うたげ)に備えて一人でシートを守るのは、たいてい日本の若手社員たち。観察すると、場所取り仕事には流派が二つある。一つは段ボールで座卓を作り、座布団や毛布を運びこむ着々派。もう一つはシートに寝そべり、スマホざんまいの悠々派だ▼30年前のわが痛恨の花見を思い出す。最初の任地で初めての幹事を任された。日の高いうちから陣取ったはいいが、炭の扱いを知らない。火を付けもせず漫然と待った。夕刻、肉や野菜を抱えて到着した上司から大目玉を食らう。「火をおこしてないのか。ガスコンロじゃないんだぞ」▼開宴は遅れた。座は寒く、酒はぬるく、肉は焼けない。情けなさで少しも酔えない。先輩方に肩をたたかれ、後片付けをした。〈酔ひもせず幹事もつとも花疲(はなづかれ)〉橋本青草▼上司にはその後も酒との上手な付き合い方を教わった。「後輩を諭す席なら酔うな」「宴席では道化も大切」。どれも身にしみた。むろんお酒には害も多く、前夜の酒量を悔やんだ朝は数知れないが、折々にあの上司の言葉を思い出す▼桜前線は北上を続ける。見ごろを迎えた名所ではきょうも若手が場所取りに励むことだろう。シートで昼寝もよし。スマホ片手の読書もよし。それでも新米幹事の皆さん、宴の備えはおさおさ怠りなく。

 

(天声人語)米閣僚の広島訪問

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 「なぜ米国要人が広島まで出かけて原爆投下を謝るのか。そういう非常識な連中をオッドボールと呼ぶんだ」。数年前、米国の基地の街で80代の元米陸軍中佐に言われた。オッドボールは変わり者、偏屈な人を指す。きつい言葉だ▼原爆は日本の降伏を早め、日米何百万人もの命を救った――。投下を正当化するこの論理は、残念ながら米国では一般にもなお支持されている。日本からみれば核廃絶は未来に向けた悲願だが、米国は過去の蒸し返しと受けとめる▼大統領選さなかの来週、ケリー米国務長官が広島を訪れる。被爆地訪問による米国内での政治的リスクを思えば、決断には改めて敬意を表したい▼さてケリー氏は爆心地のどこを訪れるだろう。過去に訪問した各国の要人は原爆ドーム見学、慰霊碑への献花、被爆者との対話、平和記念資料館訪問などから慎重に組み合わせを考えた。被爆証言をじっくり聴く人もいれば、駆け足で滞在20分という人もいた▼資料館の志賀賢治館長(63)によると米国からは過去に大統領が2人訪れている。大統領になる前のニクソン氏と、大統領を退いたあとのカーター氏だ▼ならばオバマ大統領には在任中にお越しいただきたい。プラハ演説で「核兵器のない世界」を訴え、早々にノーベル平和賞を受けたにしては核問題で実績が乏しい。政治的に不安なら、11月の大統領選の後はどうか。任期は来年1月まで。キューバとの国交正常化に勝るとも劣らない功績になると思うが、どうだろう。

 

(天声人語)タックスヘイブンの闇

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 タックスヘイブン(租税回避地)と聞くとすぐ胸に浮かぶ建物がある。カリブ海の英領ケイマン諸島で見た5階建てのビルだ。ヤシの木に囲まれた1棟に1万8千以上の法人が籍を置いた。押し合いへし合いお金を洗う資産家の群れを夢想した▼島民の男性は「税回避の島と呼ばれて愉快な気はしない」と話す。静かな漁村だった。1970年代にドル札を抱えた連中が押しかけて島の空気を悪くした。米作家ジョン?グリシャムが資金洗浄の島として描いたため、悪名が広まったと嘆く▼税率が極めて低いケイマン諸島や英領バージン諸島は、富裕層には都合がよい。だが税吏の目を逃れて資産を移した人々はいま肝を冷やしているに違いない▼税逃れに関する膨大な情報を独紙と米報道NPOが入手した。「パナマ文書」の容量は2?6テラバイト。CDなら3700枚を超す。記された人名はどこの誰なのか。本紙を含む約80カ国の記者が砂浜から粟(あわ)の粒を探す作業を続ける▼判明した粟の身元には驚くばかり。中国では習近平(シーチンピン)国家主席の実姉の夫。ロシアではプーチン大統領の長女の名付け親。アイスランドの首相はもう辞任した。日本関係では人と企業計400もの記載がある▼「お金は歓迎されるところへ向かい、歓待されるところにとどまる」。米銀行家ウォルター?リストンの言葉だ。それがお金の本能だとはいえ、政治家や資産家が同じ手口で同じ島に富を隠すのは悲しくてあさましい。格差社会の毒を見た思いがする。

 

(天声人語)都知事の海外出張費

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 江戸の錦絵に描かれた大名行列は、きちんとした礼装で、その歩みは堂々としている。しかし、裏には涙ぐましい経費節減の努力があったらしい。歴史家の安藤優一郎さんの著書『大名行列の秘密』で学んだ▼行列の人数をできるだけ減らそうと、家臣1人で2~3人分の仕事をさせる。あえて夜道を歩いて宿泊数を減らす。その宿も安くしようと、旅籠(はたご)賃の引き下げを交渉する。石高(こくだか)の割に払いが悪い大名には、皮肉の唄もできた▼仰々しい一行を大名行列に例えて呼ぶのは、江戸時代から見られるという。舛添要一東京都知事の海外視察も、どこかそんな例えを思い起こさせる。どれほど節約に努めたかは知らぬ。金額だけ見ると、なかなかの金払いの良さである▼昨年秋に1週間、パリやロンドンを訪れた一行は20人にのぼり、出張費は計5041万円。知事は往復266万円のファーストクラスを使い、1泊19万8千円するホテルのスイートルームにも滞在した▼都の言う通り、現地で客を迎える時にはそれなりの部屋がいるだろう。治安対策も大切だ。お金が生きるなら使っていい。しかし、判断に甘さはなかったか▼経済学者のフリードマンは著書で、「他人のお金を自分のために使う」場合の問題点を指摘している。安くあげようという気持ちは薄れ、多くの価値を手にしたい気持ちは強まると。学者に言われるまでもない実感だ。「もしも自分の財布から出すならどうか」。都庁の方々に、ぜひお願いしたい自問である。

 

(天声人語)不倫と補選

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 ひと昔前まで国会議員の補欠選挙は年がら年中あった。あろうことか不祥事を起こして辞めながら直後に補選に挑む者もいた。選挙法が改まり、いまは4月と10月の年2回に。原因を作った当人は出られなくなった▼おかげで補選特有の低調さはやわらいだものの、きょう告示を迎える衆院京都3区はどうだろう。今回ばかりは得心がいかないのではないか。何しろ議員の不倫の後始末である。当選2回。妻の出産直前だったうえ、育児休暇宣言で話題を作ったご当人だったこともあり、地元を落胆させた▼「あんな理由でもほんとに補選をやらないといけないのでしょうか。選挙費用がもったいなくて」と地元女性(52)は嘆く。女性の働きやすい街をめざして奮闘してきた。「友人も保育所を開こうと奔走中です。選挙費用の一部でも回してほしい」▼京都府によると、今回の補選費用はざっと2億3千万円。このお金が使えたなら、立ち上げや運営の予算に悩む各地の保育所には助けになったはずである▼衆参の補選費用は国の財政でまかなわれる。つまり地元だけでなく全国の納税者が負担する。せめてその百分の一でも騒ぎを起こしたご当人に請求書を送りたい気分になる▼きょうは北海道5区でも補選が始まる。前衆院議長の急死によるものだ。同じ「欠員」でも議員の死亡や病気と京都の一件では次元が違いすぎないか。巨額の公金が同じように投じられるのがもどかしいほどだ。何か将来に向けた妙案はないものだろうか。

 

(天声人語)磁力の強い父と娘

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 地球の反対側から「ケイコ」「ケイコ」の連呼が聞こえる。南米ペルーで大統領の座に迫るケイコ?フジモリ氏(40)のことだ。地元で聞くと漢字は「藤森恵子」が有力だが、ご本人は日系3世、漢字の稽古をしたかどうか▼映像をみると、父のフジモリ元大統領(77)に似て演説は迫力満点、抑揚たっぷり。聴衆を酔わせるタイプらしい。いまも開票が続く大統領選で首位を走る▼今回の支持の高さをみると、父の遺産はなお大きい。在任中、村々に電気を引き、水を通し、学校を建てた。その恩が支持を広げた。離婚した母に代わり、ファーストレディー役で津々浦々を父とめぐった。山岳地帯はヘリで。それが今回も生きた▼だが、父は弱みでもある。軍に命じて多くの市民を殺した罪に問われ、横領の罪も確定した。反感は衰えない。今回の選挙運動中も、反対派の集会では父を独裁者として描いた絵が並び、娘に似せた人形に火が放たれた▼父の著作を開くと兄弟姉妹4人の中で長女ケイコ氏の存在感は群を抜く。父が政界転身を打ち明けると大喜びし、官邸に入ると報道対応を助けた。4カ月に及ぶ日本大使公邸人質事件では留学先の米国から電話で激励している▼父はいま収監中だ。それ以前も日本人女性と再婚したり、日本の参院選に立候補したり、良くも悪くも話題は尽きなかった。何ともはや磁力の強い父と娘である。6月の決選投票は早くも大接戦の様相だとか。はるかアンデスから熱をおびた風が日本へ吹きつける。

 

(天声人語)秋山ちえ子さん死去

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 評論家の秋山ちえ子さんは戦時中、中国で不思議な命拾いをした。ある日、離陸直前の飛行機から降ろされる。代わりに乗りこんだのは日本の軍人。機は直後に墜落し、乗っていた全員が死亡した▼「運命は人間には計り知れない。寿命は生まれた時から決まっていると思った」。91歳の誕生日に刊行した「種を蒔(ま)く日々」に記した。その秋山さんが99歳で天寿をまっとうした▼TBSラジオの「昼の話題」と「秋山ちえ子の談話室」を40歳から85歳まで担当した。季節の話題、時事問題、子育ての悩みなど森羅万象を取りあげた。終戦の日には童話「かわいそうなぞう」を朗読した。大戦末期に動物園のゾウが餓死する物語だ。放送1万2512回。普段着のような飾らない語り口が耳の奥に残る▼繰り返し訴えたのはこの国がどれほど女性に生きにくいか。たとえば政府の審議会の仕事。真剣に論じたのに自分の考えは一向に報告書に反映されない。「女性の声を聞いたと体裁を整えるためでした。以後はすべてお断りしました」▼毎朝7紙を読んだ。常にペンを携え、残した取材ノートは数百冊に及ぶ。事前収録番組の多さを嘆き、2001年の米同時テロの翌朝は自ら局に訴えて生放送に臨んだ。気骨の放送人と呼ぶべきだろう▼「男性には戦争をしたがる人がいる」「戦争の悲惨さを知らない政治家が憲法9条をなくそうとしている」。いまの危うい政治状況を思うと、あの率直な批評がもう聴けないことが、残念でならない。

 

(天声人語)地質年代にチバニアン

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  地質学者の間で「チバ」が国際的な注目を集めている。約77万年前の地球の環境激変をくっきり刻む地層が千葉県市原市にあるとわかったからだ。地磁気のN極とS極が入れ替わった跡をいまに伝える地層だ▼地球は一つの磁石である。十万年、百万年単位ではNとSの向きが何度も逆転した。そのうち直近の逆転の痕跡が千葉で見つかった▼国際地質科学連合(IUGS)の専門家たちが昨夏、現地を視察した。地質年代の境目を示す「国際標準模式地」に選ばれると、「チバニアン」という地質年代が生まれる。「千葉時代」である▼いつごろの年代の話か。茨城大などと共同でチバニアンを推す国立極地研究所の菅沼悠介助教(39)に尋ねた。「いま私たちが生きているのは新生代第四紀完新世(かんしんせい)。そのひとつ前、第四紀更新世(こうしんせい)の中期のことです」。77万年から13万年前あたりを指すそうだ。ただイタリアも、南部イオニア海付近の2カ所を挙げて「イオニアン」を提唱。日本との一騎打ちになっている▼日本はかつて地磁気研究で世界をリードした。昭和の初め、京都帝大の松山基範(もとのり)教授が「過去に地磁気が逆転した」と発表。その功績で直近の逆磁極期は「マツヤマ期」と命名された。地質学界でチバニアンが採用されれば、それ以来のこととなる▼いま研究チームは年内の申請をめざし、資料収集や論文作成に追われる。呼称の定まった地質年代を見ると欧州由来の名が多く、日本の地名はない。千葉の人々とともに見守りたい。

 

(天声人語)熊本地震の教訓

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 いまから127年前の夜、熊本市一帯を強い地震が襲った。寝入りばなを襲われ、家屋の下敷きになった人が多かった。加藤清正の築城以来、堅牢さをほこる熊本城の石垣「武者返し」が何カ所も崩れた▼当時の記事をみると人々を不安にさせたのは流言飛語だ。近くの火山で地震の数日前に鳴動を聞いた住民がいた。「地震の次は大噴火だ」。うわさが駆けめぐる。浮足立った人々を落ち着かせようと、巡査が村々に送り込まれた。東京から来た著名な地質学博士が「鳴動しても大事には至らない」と宣言。ようやく収まった▼死者20人、負傷74人、全半壊400余を数えた。余震が非常に多く年末まで800回も揺れた。これが不安を募らせた。1889(明治22)年のことだ▼今回の地震で被害が集中したのは、益城町、宇城市、熊本市一帯。明治の被災地と重なる。地震の規模もほぼ同じ。どちらも就寝時に起きて、余震が激しく、お城の石垣を壊した▼震度7とはどんな揺れなのか。「トラックが家に突っこんだ音」「乱気流にぶつかった飛行機の振動」。過去の被災者の言葉だ。今回、益城町の女性は「地面がぐるぐる回った」と表現した。未経験者の想像を超える▼さて、震災という文字は震と災に分けられる。震は地球の営み。人には避けようもない。けれど災なら人の力で減らすことができる。いま熊本の急場は震から災へ。阪神や中越、東日本で犠牲を払いながら私たちが学んだ減災の知恵を総動員するときである。

 

(天声人語)山岸章さん逝く

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  どうせ拾った命。これからは付録の人生だ――。敗戦を迎えた時の山岸章(やまぎしあきら)さんの気持ちは、当時の多くの日本人と重なっていたことだろう。海軍の特攻要員として九州の航空基地にいた▼遺書を書いて髪の毛と爪を封筒に入れろと、上官から言われた。来年の正月に生きているだろうかと同期で話せば「ダメだろう」とみなが答えた。身内への汚名をおそれ脱走もできない。異常な状態を体験したことが、後の「捨て身戦法」につながったと著書で述べている▼若くして労働運動に加わり、NTTの前身である電電公社の労組トップにのぼりつめた。総評と同盟で対立していた労働運動の統一に心血を注ぎ、1989年の連合結成にこぎつけた。そこから政界再編を仕掛けた労働界の巨人が、86歳の生涯を閉じた▼連合会長時代は「政治に偏りすぎだ」と言われたが、「政治も労組の任務の一つ」と意に介さなかった。各党と渡り合い、非自民の細川連立政権をもたらした▼日本の労組の組織率は、70年代から低下の傾向にある。弱まりつつある影響力を束ね、一世一代の大立ち回りをしたのが山岸さんだったのだろう。統一した頃の連合の存在感は絶大で、自民一党支配を破る起爆剤となった▼しかし、その後の労働運動を十分に起爆することはできなかった。政権が企業に賃上げを求めるような昨今に、生前の山岸さんが苦言を呈していた。「まるで安倍首相が連合会長を兼務しているようだ」。無念さは、いかばかりであったろう。

 

(天声人語)活断層の非情

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大きな揺れの後に息をつく間もなく、次の揺れが来る。離れた場所にいてもテレビの緊急地震速報に胸がかきむしられるのだから、避難されている方の不安はいかばかりだろう。どうかこれ以上の被害が出ることなく、収まってくれれば▼現地から伝わる映像に言葉を失う。崩れ落ちる山肌。ひしゃげる家屋。まるで農地を二つに引き裂こうとするかのような、長い亀裂も生じた。16日未明の「本震」を引き起こした活断層のずれだという▼普段は目に見えない地底の力が、そこだけ姿を現した。過去に地震を起こした形跡があり、将来もその可能性があるのが活断層で、阪神大震災や中越地震の原因でもあった。全国に2千以上あるというから気が遠くなる▼作家の小松左京氏が、活断層の全国分布図を初めて見た時のことを書いている。「これじゃわれわれは、『ひび焼き』の陶器の上に住んでいるようなものじゃないか!」。ひび焼きとは、表面に細かなひびがびっしりと施された焼き物。列島を縦横に走る線形と、陶器そのものの脆(もろ)さが重なり合う▼東日本大震災の後、よく使われるようになった言葉に「レジリエンス」がある。被災後に元の生活をすみやかに取り戻す力のことを言う。しかし、いま被災地から伝わるのは基本的な物資の不足だ▼校庭にパイプ椅子を並べて、パンや水を求めるメッセージを作る人がいる。おにぎりをもらうため長い列に並ぶ人たちがいる。自然の非情さをはねかえす人間の力が、もっと必要だ。

 

(天声人語)避難生活を思う

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 電気なし、水道なし、ガスなし。食料もすぐには外から来ない。阪神大震災で交通が遮断された1万人余りの人工島に、住民たちが力を合わせて物資を配給する仕組みを作った。北浦浩(きたうらひろし)さんが著書『私に権限を下さい!』で記録している▼書名の通りまとめ役を買って出た北浦さんはすぐ、地域の生協に頼み込んだ。全住民に行き渡るよう、こちらで在庫を管理させてほしいと。団結して物資の分配が進む一方、「食料を持って来い」と電話で求める人に手を焼いたこともあった▼民間企業の協力もあり、1カ月を乗り切った。特に大変だったのは最初の3日で「正に戦いであった」。阪神に匹敵する揺れを経験した熊本でもきょう、本震から丸3日が経った▼避難先の食料が、まだ十分でないと伝えられる。交通網がなかなか復旧できない。それでも暮らしが少しでも改善に向かうことを願う。地元の人たちや行政、民間支援などの力で▼避難した子どもたちの不安を報じる記事があった。場所が違うので眠れない。また地震が来たらどうしようと、おびえる。5歳の息子に「ハイレベルなキャンプだよ」と話しているという、お母さんの言葉に感じ入る▼東日本大震災の避難所では、ボランティアによる足湯が好評だったという。心地よい気分で発した声を集めた本にこうあった。「この足湯って、話すことが大事なんだな。こうやって話して笑うことで心がすーっと軽くなるよ」。九州の被災地に多くの笑顔が戻るのはいつだろう。

 

(天声人語)外来鳥の声を聞く

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 ある朝、随分いい声で鳴く鳥がいるなと思い調べると、どうもガビチョウというらしい。もとは中国などにいた鳥で、「日本の侵略的外来種ワースト100」にも選ばれているというから穏やかでない▼「歌はうまいんです」というのが、日本野鳥の会のベテラン研究員、安西英明さんの評だ。「清子、清子」と聞かれるクロツグミの鳴き声に似るが、こちらは「キーヨコ」と伸ばす。美声ゆえに1980年代に輸入されて飼われたのが逃げて、繁殖したようだ▼ここ数年は急増しているようで、目の周りが白い独特の風貌(ふうぼう)を見た人たちから「図鑑にない鳥がいる」との問い合わせがある。関東や九州だけでなく東北南部でも見られるようになり、「温暖化とも関係があるかも……」と安西さんは言う。ウグイスなどの脅威にならないか、注視している▼毎年同じに見える春の野も、本当はずっと変わらないわけではない。タンポポの在来種カントウタンポポは、セイヨウタンポポなどの外来種に長い時間かけて押されてきた。「タンポポ戦争」とも言われた▼実際は植物が争っているわけでなく、都市部で自然が壊され在来種が居場所をなくしたのが原因だとの指摘がある。空白地帯に、新顔が広がったのだと(稲垣栄洋著『身近な雑草の愉快な生きかた』)▼手元の歳時記にも見えぬガビチョウではあるが、その快活さは印象的だ。人間に振り回された末の日本での暮らし。そう思うと哀れなような、いとおしいような気がしてくる。

 

(天声人語)「かもしれない運転」のすすめ

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 自動車免許の教習で「だろう運転」と「かもしれない運転」を習ったことがある。人が飛び出して来ることはないだろう。前の車が急に止まることはないだろう。そんな思い込みを戒め「危険なことがあるかもしれない」と注意して運転すべきだと▼熊本地震の活断層のずれは鹿児島まで及ばないだろう、川内原発に影響はないだろログイン前の続きう。できればそう思いたい。しかし地震の発生から6日で、すでにいくつかの「だろう」が裏切られている▼最初の地震よりも大きな「本震」が起きるとは、誰も予想しなかった。その後も続く大きな揺れに、専門家から「経験則から外れている」との声が出た。本震の原因とみられる活断層は考えられていたより長いことが分かってきた▼川内原発のある薩摩川内市の岩切秀雄市長は一昨年、事故時の避難に九州新幹線を使う案を示していた。地震で原発が壊れても、なぜか新幹線は動く「だろう」と考えていたようだ▼SF作家、小松左京氏の短編に「戦争はなかった」がある。戦後二十数年、主人公には鮮明な戦争体験があるのだが、周りの人には全くなく、探しても記録すら見つからない。戦争がなければ今の日本は考えられないじゃないか、という主人公の言葉がむなしく響く▼まさか「福島の事故はなかった」という気分になっているわけではあるまい。今からでも遅くはない、余震が完全に収まるまで、川内原発をいったん止めることを考えてはどうか。全国に広がる不安の声に耳を傾けて。

 

(天声人語)井山名人が七冠独占

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 その天才少年の囲碁を最初に見たときの驚きを、石井邦生九段が著書に記している。6歳の彼は盤の向こうに手が届きにくそうで、イスから立って打つ。その早いこと。相手の一手に間髪入れず打ち返し、大人を次々と破った▼弟子にすると決めるが、住み込みも通いも難しそうだと、行き着いたのが電話回線を通じたネット対局だログイン前の続きった。距離はあっても、濃密な指導。ネット時代の申し子といえる26歳の井山裕太名人がおととい、史上初の七冠独占を決めた▼「打ちたい所へ打つ」のが信条という。ときに相手の強い所に踏み込む危険を冒す。負けが決まったかに見えて、勝負をひっくり返す。その逆転力は今回も、十段戦の挑戦者を決める一戦で発揮された▼旧タイトル制で六冠を達成した故坂田栄男九段は「碁はマラソンのようなものである」と書いた。序盤、中盤、終盤のそれぞれにいくつかのヤマがあり、最後まで勝負が分からないことも多い。井山名人も持久走を一つずつ制してきた▼しかし世界はまだその先にある。日本勢に抜きんでた実力があった時代はすでに遠く、中国勢や韓国勢に水をあけられる。「究極的には世界で一番強くなりたい」と言う井山名人に、期待が高まる▼人工知能も、競争相手に加わる。先月は世界最強のプロ棋士の一人を負かし、衝撃が広がったばかり。脳科学者の茂木健一郎さんの「井山名人ならば、最強の人工知能にも勝てるかもしれない」との言葉はいまや、最高のエールかもしれない。

 

(天声人語)被災地の日常

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 16日の本震から1週間が過ぎた。熊本地震の避難者は8万人を超える。新聞やテレビの報道は、とかく激甚な被災地に向かうものだが、それほどの被害ではない多くの人たちは、どんな思いで過ごしたのだろうか▼熊本県

 

(天声人語)阿蘇の天然水

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 被災地?阿蘇を駆け足でめぐった。避難所で話を聞くと不便の第一はやはり断水のようだ。「電気はついても水なしでは家に戻れない」「お隣は出たのにうちは出ない」。避難所の隅には汲(く)み水とヒシャクが置かれている▼阿蘇は九州の水がめである。一帯に降る大量の雨が、草原の地下にたくわえられ、ふもとから湧き出すログイン前の続き。湧水(ゆうすい)群は環境省の「平成の名水百選」にも選ばれた。水質は住民の誇り。飲んでみると、透き通った水にかすかな甘みがして評判以上である▼水源にはポリタンクやペットボトルを抱えた住民が次々にやってくる。「そのまま飲用に」「たまった洗濯に」。自衛隊の給水車も来る。ポンプで吸って避難所へ運び風呂に使う▼地震で不通の南阿蘇鉄道には「南阿蘇 水の生まれる里 白水高原駅」という駅がある。駅名の長さは日本で1位か2位だとか。その由来となった湧水群に、地震で異変が起きた。ある水源は枯れ、別の水源は白濁した。「一夜で水脈が変わるとは」と消防団員(42)は驚く▼そういえば熊本市の水前寺成趣(じょうじゅ)園の池も干上がった。本震のあった16日朝、いきなり池の底が現れた。ある温泉街では「もし湯が絶えでもしたら」と不安の声を聞いた▼結局のところ私たちの目には、地の底の活断層の動きなど見えず、水脈の変化も見通せない。科学の力をもってしても、前震、本震、余震の順番さえつかめなかった。黙々と白煙を吐く阿蘇の峰を見ながら、人知の無力さに立ちすくむ思いがする。

 

(天声人語)避難所に咲く言葉

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 きのうに続いて熊本の様子をお伝えしたい。不明者の捜索が続く南阿蘇村の避難所では、掲示板に貼られた漫画「ワンピース」の絵に人だかりができていた。熊本市出身の作者尾田栄一郎さんが公認サイトに載せた激励文である▼「人間が気を張れる時間って限界があります。その糸が切れる前に何とか心が落ちつける状態になってほしい」。主人公ルフィが「フンバれよー!!」と呼びかける▼各避難所の掲示板には、これまでの不安と混乱がそのまま残る。「安否未確認の家庭があります。携帯が使えないならつながる人に頼んで。無事を祈っています」。書いたのはある中学校の教職員一同。「家に住めない、教科書がない、ランドセルをなくした方は担任へご連絡を」。こちらは小学校の呼びかけだ▼多くは手書き。県外へ避難した一家が当座の住所と電話番号を記した付箋(ふせん)がある。「余震が続いています。不安な中での生活、みんなで頑張りましょう」と励ます一文もある▼避難所ではペットの犬も見かける。「探し猫 左目に腫瘍(しゅよう)のある白とグレーのしまの猫探してます」。赤いペンで走り書きされたあの猫は、ぶじに見つかったのだろうか▼これまで強い揺れは夜に集中している。夜だけは家にいられないと若者でさえ言う。避難所に行けば知った顔がある。安心感が人を結ぶ。尾田さんにならえば、人間がひとりで耐えられる不安には限界があるのだろう。現地に泊まり、夜中に二度三度と揺り起こされ、そう思い至った。

 

(天声人語)あるフォークグループの後悔

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 山形県長井市のアマチュアフォークグループ「影法師」が原発のことを歌い始めたのは、チェルノブイリの事故で浮かんだ疑問からだった。あの国では広大な土地が立ち入り禁止になった。これが日本なら逃げる所はあるのだろうか▼ベースの青木文雄さんはすぐ、こんな詞を書いた。〈汚染が日本中溢(あふ)れたら/いったいどログイン前の続きこへ行くのだろう〉。地方にゴミを押しつける都会を批判する歌をつくったときにも、原発に触れた。〈原発みたいな/危ないものは/全てこっちに/押しつけといて……割り合わないね/東北というのは〉▼しばらくして仙台のテレビ局で歌う機会があった。本番前に、局の担当者が駆け寄ってきて言った。立地県のことを考えて、原発の部分だけ遠慮してもらえないでしょうか――。東日本大震災の10年ほど前のことだ▼「情けなかったのは、それを受け入れてしまったこっちの方なんです」と、バンジョーの遠藤孝太郎さんは言う。「福島の事故が起きて最初に思いました。歌っていながらこんな事態を招いてしまった。ちゃんとメッセージを届けられていたのかと」▼後悔と自責。それは、歌うことで何かを変えられるかもしれないと信じる人たちには、自然なことだったのだろう。今度はきちんと歌いたいと、原発を正面から問う「花は咲けども」をつくった。時間の許す限り、福島へ全国へと出向き演奏している▼きょうは旧ソ連で起きたチェルノブイリ事故から30年、福島の事故から5年46日になる。

 

(天声人語)特別法廷、最高裁が謝罪

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 小さなどら焼き店の雇われ店長が、突然訪れたおばあさんから雇ってほしいと言われる。50年の経験があると言って持参してきたあんは、香りも甘みも奥深かった。彼女の曲がった指が気になったが、「客の前に出なきゃいいんだ」と採用を決める▼元ハンセン病患者を主人公に、ドリアン助川さんが書いた小説『あん』である。おいしいと評判になり店は繁盛するが、やがて病気のことが噂(うわさ)になり、客が減り始める▼執筆のきっかけは1996年の「らい予防法」廃止だったと、助川さんが本紙に語っていた。ハンセン病患者を社会から強制的に隔離し、差別の温床になっていた法律がなくなった。それから20年。裁判所も差別を助長していたとして、最高裁が一昨日謝罪した▼ハンセン病患者の裁判では72年まで、通常の法廷でなく療養施設などでの「特別法廷」が数多く開かれていた。確実に治り感染力も低いので隔離は必要ない、それが明確になった後も続いていた▼もし事実上の非公開であれば公正な裁判とは言い難い。最高裁は開廷の貼り紙が療養所の正門などに貼られていたのを理由に「一般の国民の訪問が不可能であったとまでは言えない」としたが、強弁ではないか▼作家の北條民雄は患者として隔離された後に執筆を本格化した。ハンセン病を題材にするのは、2千年に及ぶ患者たちの苦痛が目に映るからだと書いた。長く続いた差別をなくす方へと、前進しているのは間違いない。しかしその歩みはあまりに遅い。

 

(天声人語)タックスヘイブンの水割り

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 「税金を払え、税金を払え」の大合唱が、ロンドンの街角に響いたという。数年前、大手薬局チェーンが、白衣で仮装した若者たちに取り囲まれた。税金の安いスイスに本社を移し、英国にほとんど納税していないとの抗議だった。矛先は銀行や飲食など多くの企業に向かった▼そのかいあったかどうか、英国政府は税逃れ企業の追及を始めた。でもアメ玉も用意した。企業が他国へ行かないよう、法人税率を下げる。現在の20%を2020年には17%にすると決めた▼「パナマ文書」により、税金がほぼゼロのタックスヘイブン(租税回避地)に注目が集まっている。同時に見逃せないのは、英国のように自国を租税回避地に近づけるかのような試みだ▼蝶(ちょう)が蜜に誘われるように、米企業が英国に移ろうとする。あせる米国の政治家に、「こちらも引き下げを」との議論が高まる。オズボーン英財務相は先月、「英国が道を開く。他国はついてくればいい」と語った。引き下げドミノとなるか▼スイスや英国に限らず、アイルランドなども法人税率は著しく低い。租税回避地がウイスキーのストレートなら、こうした国々は濃いめの水割りか。いずれにせよ酔いが回れば民主主義の基盤を崩す。企業として社会から恩恵は受けるのに、税負担は低めですむのだから。日本も引き下げが進む▼弊害を抑えようと、国々が協調して税金を取るなどの案が、識者から出る。現実的かどうかは分からない。でも何もしなければ酔いは確実に回る。

 

(天声人語)三菱自動車の燃費偽装

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  三菱自動車にかつて、「デボネア」という高級車があった。とても売れた車とは言えず巷(ちまた)ではあまり見なかったが、三菱グループ会社のトップたちの社用車にはよく使われていた。旧財閥の仲間内で支え合う、そんな姿勢の象徴でもあった▼2000年以降の三菱自動車は不祥事の連続だった。死傷事故を起こすほどの欠ログイン前の続き陥があっても隠す。車に問題があっても内密に修理する。信用を失い経営危機に陥ったが、グループに救われた▼04年に、三菱の「御三家」といわれる銀行、商事、重工業が中心になってお金を出すと決め、人も送り込んだ。当時の新聞に「三菱の名のついた企業がつぶれるはずがない」という社内の声がある。その通りになった▼会社という入れ物は救ったが、体質は救えなかったようだ。今回明らかになった燃費の偽装では、実際に車を走らせず、机の上で計算してすませた例が相次いだという。鉛筆をなめる、とはこのことだ▼驚くのは、「不正」が25年にわたっていたことだ。不祥事対応に追われて、経営再建を進める最中も続いていた。競争相手に負けない燃費の数字を作ることが何より優先されたのか▼横山源之助著『明治富豪史』で、草創期の三菱財閥の幹部が皮肉っぽく書かれている。ふだんは威張るのに、大旦那?岩崎弥太郎の前では「好(よ)い児(こ)におなり遊ばす」。そんな内向きの行動様式、今は引きずっていないだろうか。グループだから救う、救わないの論理では、消費者の視線にたえられない。

 

(天声人語)費用対効果、医療にも

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 がんを告知された英国人女性が、効果があるといわれる治療薬を知った。しかし、公的医療では認められないと医師に言われる。税金でまかなうには価格が高すぎるのが理由だった▼もうすぐ家族とお別れかもしれない。「どんなに家族のことを思い、どれほど一緒に過ごしたいか」を強く感じたと、彼女の手記にある。薬を使わせログイン前の続きてほしいと政治に働きかけ、最後は特例ながら認められた▼こうした出来事の背景には、「費用対効果」に基づく英国の制度がある。漢字でわずか5字ながら、その意味は重い。「どれだけお金がかかるか」と「どれだけ生きられるか」を天秤(てんびん)にかけるのだから。もしかして将来は日本も、と思わせる動きが出ている▼厚生労働省が、7種類の医薬品と5種類の医療機器を選び、費用対効果を分析するという。1人あたり年間約3500万円かかるがん治療薬もある。大部分が税金や保険料でまかなわれることを考えれば確かに高い。一方で患者や家族が薬に託す「希望」を想像する▼医療は分け隔てなく施されるべきだと、昔から「医は仁術なり」と言う。しかし今は、「医は高度技術なり」とも言えそうだ。そして先端の治療は、ときに大変な費用がかかる。仁術であることを保証するのが我が健康保険制度ではあるが、どこまで重みに耐えられるか▼考えたくないことまで考えねばならぬ時代になった。議論を尽くそう、というのは陳腐な言葉かもしれない。でもこの件ほど、そう感じることはない。

 

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