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天声人语(2016年2月份)

来源:日语港 作者:日语港 时间:2016-02-29 阅读:4652

(天声人語)デモ届け出制でいいのか

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 今の高校生は何に関心があるのか。本紙の山口総局が県内の高校生6352人にアンケートし、この新年に「18歳が選ぶ」と題して連載した。一番の関心事が「いじめ、不登校などの学校問題」だったのは、当事者としての切実な選択だろう▼消費税などの身近な問題に比べ、「集団的自衛権」は縁遠いかと思いきや、20のテーマの中で5位に入った。若者による安保法反対のデモに触れた意見も多かった。法への賛否はともかく、同世代の行動は刺激になったようだ▼時間が経ったから、年が改まったからといって、違憲の法が合憲になることはない――。安保法に反対する高校生グループ「T―ns SOWL(ティーンズ ソウル)」が先日記者会見し、法の廃止を主張し続けると語った。2月21日には全国一斉のデモを予定している▼周囲の無関心を感じたり、冷笑されたりすることもある。それでも「自分の意見を言いにくい社会は本当にいい社会なのか」と訴えた。頼もしい言葉だ▼選挙権年齢が18歳以上になるのに伴い、休日や放課後の高校生の政治活動が認められた。ところが文科省が新たな見解を示した。デモなどに参加する際、学校に事前に届けを出させる制度の導入を認めるという▼校外での行動も管理下に置こうとする思考に首をひねる。教育の場から政治をなるべく遠ざけておきたいという発想が根にあるなら、それは自家撞着(じかどうちゃく)とも映る。生徒の政治活動をどこまで認めるかという線引き自体が、政治の作用にほかならないのだから。

 

(天声人語)米大統領レースの号砲

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 橋を撮るために片田舎にやってきたカメラマンと、農家の妻との4日間の切ない恋。大ベストセラーで映画にもなった『マディソン郡の橋』に胸を熱くした方もおいでだろう。情感あふれる物語は、米アイオワ州が舞台だった▼一面にトウモロコシ畑が広がる地味な農業州へ、4年に1度、世界のメディアが参集する。うるう年のイベントといえば五輪夏季大会と米大統領選挙だが、長く熾烈(しれつ)な選挙戦の幕が毎回、この州で切って落とされる▼そのタフなレースの号砲が、きのう鳴った。本日昼頃には初戦の結果が出る。民主党のクリントン氏にとっては、8年前に3位に沈んだ州である。当初は本命視されながら、結局は候補者指名でオバマ現大統領に敗れた。年齢的にも、今回がラストチャンスだろう▼共和党のトランプ氏は異色だ。当初は取るに足りないと見られていたが、本音を代弁する言いたい放題で支持を伸ばしてきた。「トランプ現象」は、憎悪や偏見をあおって膨らむ怪物を思わせて不気味である▼米国の大統領とは、多様な国民がその時々に求める「あるべきアメリカ」の象徴といえる。さらに世界に責任を持つ人でもある。影響力が衰えたとはいえ、世界を左右しうる最たる人物なのは変わらない▼それを思えば選ぶ側の責任は重い。今のケリー米国務長官がかつて大統領選候補だったとき、遊説中によく「皆さんには世界に対する責任がある」と語っていたのを思い出す。アイオワの人々の吟味は、さてどうなる。

 

(天声人語)新たな脅威「ジカ熱」

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 伝染病にも古顔と新顔があって、コレラはペストのような長い歴史に記憶された古株ではないらしい。インド?ベンガル地方の風土病だったのが、19世紀になって世界規模に広がったという▼近代文明がもたらした交通の発達に便乗したそうだ。立川昭二著『病気の社会史』を読むと、拡散する勢いは恐ろしい。「故郷」を出て何年かでアジアや中東域に広まった。日本にも上陸している。その後欧州に伝わり、大西洋を越えて米大陸へ。20年ほどで地球をなめ尽くしたとされる▼古来、人の移動とともに伝染病は世界に散らばった。今や19世紀の昔より地球はずっと狭い。病原体はいつどこへ飛び火しても不思議はない。そうした中へ、聞き慣れぬウイルスの登場である▼ブラジルを中心に、南米と中米で「ジカ熱」が急速に広がっている。世界保健機関は緊急事態を宣言した。症状は軽いが、妊婦がジカウイルスに感染した場合、小頭症の子が生まれる可能性が指摘されている▼「ネッタイシマカとの戦争を開始しなくてはならない」とブラジル大統領はツイッターで宣言した。デング熱なども運ぶ怖い刺客である。国民の健康はむろんだが、この夏の五輪では世界から人々を迎える。「戦争」とは大仰ならぬ決意表明だろう▼ジカウイルスは1947年にアフリカの猿から見つかり5年後に人への感染が確認された。今後1年で300万から400万人が感染する恐れもあるそうだ。日本にとっても「地球の裏側の火事」ではない。

 

(天声人語)あるまじき「清原容疑者」

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 朝、新聞が届く。「私はいつも最初にスポーツ欄を開く」と言ったのは米国の政治家で判事だったウォーレン氏だ。「そこには人間が達成したことが記録されている。第一面は人間のしでかした失敗ばかりだ」。この言葉を前に小欄で紹介したことがある▼きのうの本紙最終版の1面にも「人間のしでかした失敗」が載った。プロ野球の清原和博元選手(48)が覚醒剤所持の疑いで逮捕された。まだ容疑の段階だが、幾度もスポーツ面を飾った花形の、あるまじき事件記事である▼8年前の秋、引退式で、3万人ものファンが歌手の長渕剛さんと名曲「とんぼ」を大合唱した。打席へ向かう清原選手のテーマソングだった。〈死にたいくらいに憧れた東京のバカヤローが/知らん顔して黙ったまま突っ立ってる〉▼歌詞の一節そのままに、「バカヤロー」と泣きたい気分のファンは少なくあるまい。本塁打、安打、打点。どれもが一流だが、それにも増して人間味や男気、反骨無頼の味わいで人をひきつけた▼とはいえ許されるのは「味わい」までで、文字通りの無頼、無法に落ちては栄光も崩れ去る。本人は覚醒剤を「私のものに間違いありません」と認めているそうだ。道を踏み外す前には、いくら悔やんでも戻れない▼十数年ばかり前、ある歌手が覚醒剤事件裁判の被告人質問で述べていたのを思い出す。「捕まってよかった。これでやり直しがきく」。深夜の警察車両でうなだれる清原容疑者の胸中を、何がよぎっていっただろう。

 

(天声人語)北風の中の「光の春」

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 ふと気がつくと「早春賦(そうしゅんふ)」を口ずさんでいる。この時季、そんな人もおられようか。#春は名のみの風の寒さや……。女声コーラスが一番ふさわしく思われるが、ひとり低唱するのにもいい。寒さのなかに淡い淡い春を感じるのは、北風の中で光のまぶしさに気づくときだ▼〈梅二月ひかりは風とともにあり〉西島麦南(ばくなん)。光はいつも、気温にさきがけて次の季節の到来を告げる。日脚も伸びて、東京ならもう元日より30分以上日没が遅い。2月のことを「光の春」とはよく言ったものだ▼その言葉を、気象随筆の倉嶋厚さんは旧ソ連の論文で知ったという。モスクワの予報官から贈られた本には、荒涼とした冬から兆(きざ)しはじめる「光の春」が美しく語られていた。冬が暗くて長いほど光に春を感じるのだろうと倉嶋さんは言っている▼きのうは立春、春がたち返る日だった。いつもながら名のみの節目だが、それでも駅まで歩く道で、日だまりにかたまって咲く空色の小花を見た。ぱちりと開いた早春の花はオオイヌノフグリだ▼犬のふぐり、すなわち「犬の股間の袋」という、いささか不憫(ふびん)な名をつけられて、花の精はお怒りか。この花は光の春にふさわしく、陽光の中で開き、日が陰るとつぼんでしまう▼早春賦に戻れば、その3番#春と聞かねば知らでありしを/聞けば急(せ)かるる胸の思(おもい)を……は、名ばかりの立春への恨み節にも思われる。春ほど待たれる季節はなく、春ほど待たされる季節もない。遠い兆しに五感を澄ましてみる。

 

(天声人語)「反うわさ戦略」という試み

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 事実が逆(さか)さまに伝わる例について、作家の故?丸谷才一さんが書いていた。音楽学校で英語を教えていた頃のこと、隣室の合唱の声が大きくて授業にならず、合唱の部屋から遠い教室に移してもらったそうだ▼片や丸谷さんも声が大きい。そこで話は、丸谷さんのどなり声に合唱の先生が授業にならないと悲鳴を上げて、遠い教室へ避難した、となったらしい。笑えるし、ご本人も楽しんで書いている。ひるがえって今は、人を傷つける罪なデマやうわさばかり、世の中におびただしい▼それらは偏見を連れ歩き、社会に染みつけば容易に消えない。ゆゆしい事態を防ごうとするスペイン?バルセロナの「反うわさ戦略」を先日の本紙で知った。移民に関する否定的なうわさを打ち消す、地道な取り組みだ▼移民のせいで医療費が膨らむ。言葉を学ぼうとしない――。あれこれ流布するうわさを集めては、反証データをそろえる。確かな情報でゆがみを正していく試みで、誤解が生む悪感情はだいぶ減ったという▼〈いくつもの人のこころを経由してうつくしからぬ噂(うわさ)とどきぬ〉。歌人松村正直さんの歌は、ネット時代に重なって不気味さを帯びる。人の心を渡って伝播(でんぱ)する速さは、口伝えの頃の比ではない▼知らない同士でも、他者へのネガティブな感情で簡単に結びついてしまうのが、どうやら私たちらしい。「理性、判断力はゆっくりと歩いてくるが、偏見は群れをなして走ってくる」。古人の言葉を、今こそかみしめる時だろう。

 

(天声人語)シャープの躓きの石

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 白黒テレビが家庭にやってきたときの感慨を記した文章は少なくない。作家の林望(はやしのぞむ)氏が隣家に「貰(もら)いテレビ」に行かなくてよくなったのは、昭和30年代前半の小学生の頃。工事に来た電気屋さんも一緒に祝杯をあげ、ご馳走(ちそう)を食べた▼初期は米国の番組が多く、小さな画面が異文化を伝えた。「テレビを床の間に置く家が珍しくなかった……それまで見たこともなかった世界がのぞけるというそれだけで、もう神様だった」と書いたのは作家の故永倉万治(ながくらまんじ)氏だ▼テレビが真ん中にあったのは、作る側の家電業界も同じだった。かつてのブラウン管テレビは、米国向け輸出の主力商品だった。薄型テレビの時代になると、商機とばかりメーカーが競い合って製品を送り出した▼今思えばテレビにこだわりすぎたのかもしれない。シャープはその最たるもので、国産の高品質モデルで勝負をかけ一世を風靡(ふうび)した。しかし、それが躓(つまず)きの石になる。デジタル技術の進歩でテレビは、部品を集めれば簡単に作れる存在に変わってしまった▼世界の市場で日本の家電は中韓勢に押され、シャープは台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入る案が有力になった。「海外に技術が流出する」と心配する声もあると聞く。そんなにすごい物があるなら、なぜここまで傾いたのだろう▼多くの家でテレビは今も大きな顔で座っているが、さていつまで続くか。スマホだって将来は分からない。技術の進歩も人々の好みも立ち止まってはくれない。経営の厳しさである。

 

(天声人語)北、核に続きミサイルも

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 生まれながらに異様な体制の中にいれば、それが当たり前であり、異様とは感じられない。昨年秋まで続いた朝日新聞デジタルの連載インタビュー「脱北者の証言」を読み返すと、そのことがよくわかる▼ある男性は「北朝鮮では生活そのものが思想統制だ」と語った。会社では社長、部長、課長が互いを監視し合う。政府の悪口を言う者があれば、とにかく通報するのが善だったという証言がある。学校での思想教育に「なぜ」という問い返しはありえなかった、とも▼微妙な変化もある。例えば賄賂。かつてそれほど露骨でなかった悪習が、90年代以降に増え、今ではいや応なしに必要な「ルール」だという。経済が苦しくなったことによるらしい。3代目に至り、体制への忠誠心にも揺らぎが見られるとの声もある▼自らの足元への不安を金正恩氏は感じているのだろうか。先の「水爆」実験に続き、長距離弾道ミサイルとみられる「人工衛星」を発射した。独裁維持のための狼藉(ろうぜき)なら、誠に悪質だ▼恐怖政治に終わりはないのか。外からの情報の大切さを脱北者は指摘する。ひそかに入手したラジオを聞いて逃避行の準備を始めた人がいる。DVDを国内に潜り込ませ、人々の覚醒を促してはという提案もある▼脱北後にインターネットを知って驚いたという人は、同胞がネットを自由に使うようになれば体制は壊れると語った。当たり前と感じていた体制が実は異様だと人々が気づく。確かにここに正恩氏の不安はあるだろう。

 

(天声人語)豊かさと幸せ問う倉本劇

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 ライバル紙ながら、脚本家の倉本聰さんが毎日新聞に連載しているコラム「林中無策」を楽しみにしている。先月はこんなことをお書きだった。日本という車にはブレーキもバックギアもない。ダッシュボードについているのは「経済指標」という巨大なメーター一つのみであると▼大量生産、大量消費の社会は、はたして豊かで幸せなのか。問い続ける倉本さんが書き、演出を手がける劇「屋根」が、巡回公演で各地を回っている。私たちが時の流れに落としてきたものを深く心に刻印する、約2時間の舞台だ▼流れる時は大正から平成をまたぐ。北海道の開拓小屋で結ばれ、9人の子をなした夫婦が、時代の波にもまれながら懸命に生きる。息子2人は戦死、1人は徴兵に抗(あらが)って自殺する▼ようやく戦争が終わると、豊かさや便利さを際限なく求める時代が来た。捨てては買い、買ってはまた捨てる。周囲が消費に浮かれる中、捨てられるものを慈しむように夫婦は古着を裂いて縄を綯(な)いはじめる――▼思えば石油も他の資源も、豊かな土壌も海も、この星が億の歳月をかけて蓄え育ててきた財産である。長い地球史から見れば、一瞬で財産を消尽しかねないのが私たちではないかと、倉本さんは案じて言う▼ふと浮かぶのは、本紙歌壇の選者馬場あき子さんの歌だ。〈使ひ捨てのやうに手荒く棲(す)んでゐる地球さびしく梅咲きにけり〉。謙虚につましく生きるという、難しいが避けては通れぬ課題が、涙と笑いの舞台から透けてくる。

 

(天声人語)公平中立をめぐる空気

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  いささか古い話だが、ニュースキャスターの降板で思い出すのは故?田英夫(でんひでお)さんだ。後に参院議員も務めた田さんは1968年3月27日、「それではみなさん、さようなら」の言葉を最後にTBSの「ニュースコープ」を退いた▼背景には、田さんのベトナム戦争報道をめぐって、自民党の横やりがあったとされる。子細は省くが、自民党からは「共産主義の宣伝」といった批判が起きたという。これに対し田さんは、著書で「政府?自民党には『真実の報道』であったがゆえに、きわめて不都合だったのである」と述べている▼放送法を盾にとっての権力の口出しは、今に始まったことではない。晩年の田さんにインタビューしたとき、マスコミが公平中立に縛られる懸念を語っていた。ご存命なら、今の政権と放送の在りように言いたいことは多かろう▼8日と9日の国会では、高市総務相が、政治的な公平を欠いた場合の電波停止の可能性に言及した。「繰り返せば」の前提をつけてだが、放送関係者はどう受け止めただろう▼〈「政治的中立性」とは「自民党のやることに異議を唱えない」こと〉松木秀。朝日歌壇の一首は昨今の空気をすくい取る。言論の自由とは、権力や多数派にもの申す自由をこそいうはずだが、放送に限らずその足元が、どうにも危うい▼「風船を何百個も上げると、みんな同じ方向へ飛んでいくような風を、マスコミが作ってはいけない」と田さんが語ってくれたのが胸に残る。もの言う志を磨きたい。

 

(天声人語)黒田バズーカの吉凶

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 今でも言うのか、子どものころに八百屋のおじさんがナスのことを「ヨイチ、ヨイチ」と呼んでいた。源平合戦の武者、那須与一(なすのよいち)をもじった青果業界の隠語だと後に知った。弓の達人の伝説は、平家物語の名調子でつとに知られる▼海に浮かぶ平家の船から「これを射よ」と扇をかざされ、見事に射抜く場面は聞かせどころだ。「与一鏑(かぶら)を取ってつがい、よっ引(ぴ)いてひょうど放(はな)つ」「鏑は海へ入りければ、扇は空へぞあがりける」。授業で暗記した方もおいでだろう▼時は流れて、アベノミクスの矢の射手を担う黒田日銀総裁である。市場のお金を極端に増やす強烈な策は、市場関係者から「黒田バズーカ」ともてはやされている。耳慣れぬ今回のマイナス金利政策もその流れだ▼だが、平成の与一の腕はどうだろう。〈バズーカを真上に撃てば落ちてくる〉と朝日川柳にあった。弾が頭の上に落ちてこないか。打つ手が裏目に出て、暮らしに跳ね返る不安を感じる向きは少なくない▼ついでに言えば、中央銀行といえば政府からの独立が身上ながら、ここ3年は政府の道具になってきた観がある。株高円安で好況感を演出してきたが、政権が頼みとする株価が下がり続けるなど、手詰まり感から放ったのが今回の奇策といえる▼3年前の春、黒田日銀が初回のバズーカとなる「異次元の政策」を打ち出したとき、故?小沢昭一さんの句を引いた。〈寒月やさて行く末の丁と半〉。吉と出るか凶と出るか。賭け物は私たちの暮らしである。

 

(天声人語)米国の「民主主義の祭り」

20162120500

 アメリカ大統領に最高齢で就いたのは、第40代のレーガン氏で69歳だった。2期目の選挙のとき、討論会で年齢について聞かれ、ユーモアたっぷりに「私はライバルの若さや経験不足を政治利用する気はありませんよ」と切り返して爆笑を誘ったのは語りぐさだ。結果は、大差で相手を退けた▼さて、第45代を決めるレースは、序盤の2州を終えて高年の3人を軸とする展開となっている。共和党のトランプ氏は69歳。民主党のクリントン氏68歳、サンダース氏は74歳。勝ち抜けば、就任年齢は歴代最高並みかそれを上回る▼8年前にはオバマ氏が若き彗星(すいせい)だった。サンダース氏は失礼ながら「老いたる彗星」か。無名に近かった候補が、格差に反発する若者らの支持を集めて輝きを増している。その風貌(ふうぼう)と口調には「希望の種をまく人」の印象が強い▼一握りの人々への富の偏(かたよ)りを指弾し、医療保険の拡充や公立大の授業料無償化などを主張する。福祉や公的保護の手厚い「大きな政府」の路線で、それもとびきり大胆だ▼初戦アイオワでは若者の8割が氏に投票したという。「理想主義にすぎないとも言われるが、我々には理想が必要」と語る23歳の声を国際面が伝えていた。2戦目ニューハンプシャーではクリントン氏を抑えた▼老いたる彗星は、米政界の夜空をいっときかすめて消えるのか。それともワシントンの既成政治を直撃するのか。トランプ旋風といい、「民主主義の祭り」は超大国のかかえる現実を世界にあぶり出す。

 

(天声人語)アインシュタインの宿題

20162130500

 お酒を飲む口実は、さまざまだ。英国の古い詩人は書いている。〈酒を飲むべき理由は、五つばかりだ。/うまい酒があるから。友人と一緒だから。/のどが渇いたから。……そして最後には/どんな理由でもよかろう!〉と▼詩人アーサー?ビナードさんの本紙寄稿文から引いた。きのう金曜、夜の巷(ちまた)で「世紀の初観測」を肴(さかな)に杯を挙げ、重ねた向きもあったろうか。人類もやるもんだ――。自分の手柄でもないのにどこか気分壮大になる、科学史上の大ニュースである▼米国の研究チームが、はるかな宇宙からの「重力波」を観測したと発表した。アインシュタインが100年前に存在を予言し、実証は「最後の宿題」とされていた。ノーベル賞が確実視される快挙であるらしい▼ゆえに世界の物理学者が一番乗りをめざしていた。重力波とは時空のゆがみが「さざ波」のように宇宙を伝わる現象、と聞いても、わが頭の想像力が追いつかない。ともあれその波が、光では見えなかった宇宙の姿を見せてくれるそうだ▼宇宙が誕生した138億年前から生じていて、原初の謎に迫る新たな「道具」と専門家は見る。ただ無辺の宇宙を究める上で、初観測は始まりにすぎないらしい。ようやく道具を手にした段階だ▼もじゃもじゃ頭で舌をべろっと出したアインシュタインの写真はよく知られる。どこか意地悪な宿題で人類を困らせる、いたずらな神様に見えてくる。いまごろ天上で言っているかもしれない。やっと来たね、ここまで。

 

 

(天声人語)大仏様の健康診断

20162140500

 鎌倉の大仏はいま半世紀ぶりの点検修理中である。〈みほとけなれど……美男におはす〉と与謝野晶子がたたえたマスクだけでなく体の内側も念入りに調べる。あわせて積年の汚れも落とすと言うから、健康診断と全身エステを一緒に受けるようなものか▼現地作業を率いる東京文化財研究所の森井順之(まさゆき)さん(39)が隅々まで調べて驚いたのは、チューインガム被害の多さ。指でこねつけられて固まったガムが十数カ所で見つかった。落書きも多く、人名が筆やチョークで書かれていた▼今回の重点課題のひとつは免震装置の点検だ。関東大震災では台座から35センチもずれて傾いた。1959年から2年半をかけた昭和の大修理では先駆的な免震工事がなされた。その甲斐(かい)あって東日本大震災の被害は免れたものの、将来の揺れにどこまで耐えられるか▼全身の洗浄にも力を入れる。年ごとのお身拭いでは手の届かない頭頂部の汚れを落とすと、鮮やかな地髪がよみがえった。ちなみに抜け毛や白髪はなかったそうだ▼2カ月に及ぶ調査の前半を見る限り、予想をはるかにしのぐ健康状態だという。「倒壊の跡がない。鎌倉期の鋳物師たちの技術の高さ、仕事の丹念さに感心しています」▼風雪に耐えること七百数十年、うらやむべき壮健さではないか。座ってばかりで運動不足かと思いきや、恵まれたのは晶子好みの面立ちだけではなかったようだ。平成の大修理は来月10日まで。最先端のエステで美肌になったお顔がまもなく拝めそうだ。

 

 

(天声人語)閉ざされた小窓

20162160500

 面影に立つと言い、影を慕いてと歌う。影はさまざまなときに姿を現す。いとしい影は水にも映る。〈わが妻はいたく恋ひらし飲む水に影さへ見えて世に忘られず〉は万葉集に収まる防人(さきもり)の歌だ▼片や、あやしい影は酒杯に映る。「杯中(はいちゅう)の蛇影(だえい)」の故事は、疑いが高じれば、ありもしない蛇の影さえ見える意味だと前にも書いた。側近も信用できず、疑心に暗鬼が群がる独裁者の寒々とした心を表すのに、これほど図星の言葉もない▼北朝鮮の3代目、金正恩(キムジョンウン)第1書記の目には蛇の影ばかり映るのか。恐怖政治が極まったような情報がもれ伝わってくる。今月初めには軍総参謀長が粛清された。側近らを次々に処刑しているらしい▼そんな独裁国へ拉致されたままの被害者を思うと、いたたまれない。ようやく開いたかに見えた「救出の小窓」も一方的に閉じられ、北は先週金曜に拉致問題の特別調査委の解体を宣言した。人の命と家族の願いを駆け引きにもてあそぶ悪辣(あくらつ)さは、21世紀の国家とは思えない▼横田めぐみさんの母、早紀江さん(80)が、一昨年に出した本に「凝縮されためぐみの面影を追い続けて、今日まで頑張ってきました」と書いていた。被害者家族はどなたも、水に影さえ見る思いで無事戻る日を待ち望んでいよう▼恐怖政治がいつまでも続くとは思えない。ただ独裁者は往々、おのれの運命に民を巻き込む。ご家族の心中はいかばかりか。高齢化も進む。悲嘆の歳月をこれ以上積み重ねない道を、何とか探れないか。

 

(天声人語)新たな第9の惑星

20162170500

 七曜(しちよう)とは1週間の曜日のことだが、太陽と月に火????土の5惑星を合わせた名称でもある。このうち太陽を除く6星を一枚に収めた未明の写真が、本紙デジタル版に載っていた。勢ぞろいで並ぶ姿を、愛知の藤井哲也さんが撮影した▼「日(太陽)があれば1週間がそろったんですが」と藤井さんは笑う。むずかしかったアインシュタインの重力波に比べて、太陽系の話題はご近所感がある▼その太陽系のさいはてに、第9の惑星が存在する可能性が浮上した。地球の約10倍の質量があって、1万~2万年かけて太陽を回っているという。といってもまだ理論上の予測で、姿が確認されたわけではない▼土星までの惑星は古代から知られていた。天王星は18世紀になって望遠鏡で見つかり、その軌道計算から、さらに外側を回る惑星が理論的に浮かび上がった。それが海王星で、予測通りに発見されたことから「天体力学の勝利」と言われた▼最後に見つかった冥王星は格下げとなって、惑星はいま「8人きょうだい」。降格のきっかけをつくり、『冥王星を殺したのは私です』と題する著書もある米の天文学者マイク?ブラウン博士が、新たな第9惑星の存在を予言したのも因縁めく▼冥王星は米国人が発見しただけに、米国内の失望は大きく、博士は街角で呼び止められたり、飛行機内で詰め寄られたりしたそうだ。これから世界の天文台で探索が始まるだろう。発見!のときを一番待ちわびるのは、当の博士に違いない。

 

(天声人語)甘利氏の語った美学

20162180500

 私感だが、人はこんなふうにも分類できる。自分を語るのに生き様や美学、矜持(きょうじ)といった言葉を割と平気で使う人と、そうでない人と。政治家には前者が多いように思う。閣僚を辞任した甘利明氏も会見で語っていた▼政治家の美学や矜持を考えるうちに、ある話が胸に浮かんだ。古代のシチリアでは、国家の意思を決める民会で殺傷沙汰がしばしば起きた。そこでディオクレスという立法者が、武器を携えて民会に臨(のぞ)むのを禁じ、違反は死罪と決めた▼あるとき彼は剣を取って戦場へ向かうが、途中で用が生じて民会へと駆けつけた。政敵に帯剣を指弾された彼は、「自分は自ら作った法を行うに躊躇(ちゅうちょ)する者に非(あら)ず」と叫んで、直ちに剣で自分の胸を突いたという(穂積陳重〈のぶしげ〉『法窓夜話』から)▼何もそこまでと思うほど自分に厳しい姿が鮮烈だ。古代の美学と矜持が匂い立つ。時代も話のことがらも違うのは承知で、甘利氏の言う「政治家としての美学」と比べてしまう▼甘利氏の言う美学とは、つまるところ、保身の目くらましに放ったイカの墨ではなかったか。潔さを演出して身を引き、あとは黙り通してうやむやになるのを待っているのだとしたら、政治家として恥ずかしいことだ▼この間にも国会の場では、当時の秘書が補償金の交渉で口利き介入し、高級車を要求していたと疑われるやりとりが明るみに出ている。政府?自民党にも真相解明への責任感はうかがえない。同じ穴の政治家が、かばい合う図に見えなくもない。

 

(天声人語)くしゃみ百態

20162190500

 〈「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ〉。俵万智さんの恋の名歌をもじるなら〈「飛んでるね」と話しかければ「飛んでるね」と答える人のいるむずがゆさ〉。今年も花粉症の季節の到来である▼当方も含めて悩める人は多く、電車内でも鼻をすする音やくしゃみを聞く。くしゃみには百態ある。憚(はばか)りなしの大音響あり、包んで隠すような小音あり、出そうで出ない福笑い顔もある。号砲一発のあと、手のひらで額を叩(たた)くご高齢もいた▼くしゃみのあとの呪文(じゅもん)は古くからあったらしく、清少納言は「枕草子」でそれを嫌がっている。内館牧子さんがこのあいだ、週刊朝日の連載コラムに書いていた友人女性の呪文癖も、かなりのものだ▼美形にして頭脳明晰(めいせき)だが、たった一つの欠点がくしゃみなのだという。ヘーイックションッと大声で放ったあとに必ず「チクショーこのヤロー」がついてくるのだそうだ。花粉症の時期は連発し、3回やれば3回、律義に宣(のたま)うというから奇癖である▼ご当人によれば祖父の癖がうつったのかもしれないそうな。ともあれ春は兆(きざ)して、堅かった桜の冬木も心なしか赤みをおびてきた。地上の命が営みに目覚める中、杉にだけ寝ていてくれと命じるすべはない▼風にうねる杉林から薄黄色の煙幕がわき上がる。敵機総出撃のような映像を見るだけで、ムズムズするという同僚がいる。「きょうは飛んでるね」。そろそろ職場でも言い交わされるころか。目鼻の守りを怠りなく。

 

(天声人語)春風に坐する教育

20162200500

 今年の春は楽しみが一つ増えた。そう思っていただく方もあろうか、4月1日から夏目漱石の「吾輩(わがはい)は猫である」の連載が本紙で始まる。明治時代に雑誌「ホトトギス」に連載された文豪のデビュー作だ▼猫の吾輩は中学教師の苦沙弥(くしゃみ)先生に拾われる。明け暮れを眺めて猫は考える。「教師というものは実に楽なものだ。人間と生まれたら教師となるに限る。こんなに寝て居て勤まるものなら猫にでも出来ぬ事はない」。そうしたのどかな感想も、しかし今は昔である▼教師の多忙が、昨今しばしば報じられる。先日は、部活動の負担を減らす署名が先生の間に広がっている記事を読んだ。経済協力開発機構(OECD)の3年前の調査によれば、日本の中学校の先生の勤務時間は、世界でも際だって長い▼反対に、指導への自信は際だって低かった。先生の本分は生徒と向き合うことのはずが、事務処理やあれやこれやで時間がないらしい。疲れ果てて笑顔を失った先生が増えていないか、心配になってくる▼季節柄、思うのは「春風(しゅんぷう)の中に坐(ざ)す」の言葉だ。中国故事に由来し、春のそよ風が万物を成長させるように、よき師のもとで育まれる幸せを言う。多忙を超えて「過忙」とも言うべき現代の学校に、春の風は優しく吹いているだろうか▼漱石先生と門弟は春に坐する間柄だったろう。「猫」の登場人物のモデルとされる寺田寅彦が一句残している。〈先生と話して居れば小春かな〉。教室の先生と生徒も、こうであってほしい。

 

(天声人語)絶望ラジオの告発

20162210500

 若者の絶望的な話ばかりを紹介するインターネット番組が、韓国にある。「絶望ラジオ」。就職に失敗したが親にはうまくいったとウソをついて借金生活を送り、最後は自殺した。そんなニュースを拾い続け、ほぼ半年になる▼コーヒー店の面接で容姿を理由に落とされ、「あなたのような人が応募するとは度胸がある」とまで言われた。そんな聴き手の体験談も。韓国ではここ数年、若者の雇用状況が悪化の一途をたどる。放送は、窮状の告発なのだ▼番組が生まれたのは、大人たちの説教じみた態度への反発からだ。「努力が足りない、もっと努力しろと私たちは言われてきた。でもそれは現状を個人の問題にすり替えるだけだ」と、25歳の番組DJ、龍慧仁(ヨンヘイン)さんは言う。助言も激励も加えず、ありのままを伝えようとしている▼韓国の現状は日本を追っているとも、問題がより顕著に表れているとも言える。学校で過酷な競争を強いられたあげく、行き着くのは非正規の仕事。恋愛、結婚、出産を放棄せざるを得ないと「3放世代」の言葉も生まれた▼若者の間では、この国が地獄みたいだと「ヘル朝鮮」なる言い方も流行する。半分冗談、半分は社会への批判だ。そう言えば、日本の「ブラック企業」もネットで自然に広がった言葉だった。若者の使い捨てを止める運動の力になった▼新たな動きは韓国にもある。労組を作りアルバイトの人権を守る、困っている若者に住居を提供する。絶望の先へ。小さな歩みが始まっている。

 

(天声人語)ボッティチェリの青と赤

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 鮮やかな色彩の記憶がある。以前、金沢のひがし茶屋街を歩き、加賀藩時代の面影を残すお茶屋の中を見学した。かつて舞や三弦が披露されただろうお座敷の壁は、紅殻(べんがら)で塗られ、あでやかな赤だった▼「はなれ」と呼ばれる奥の座敷に進んで驚いた。一転して群青色に彩られた空間である。宴の場に似つかわしくない印象も持ったが、引き込まれるような心地よい感覚があった。聞けば前田のお殿様も愛(め)でた色とのこと。赤と青の競演を堪能した▼先日、同じ対比を上野の東京都美術館で開かれているボッティチェリ展で味わった。呼び物の一つである「書物の聖母」。憂い顔のマドンナのまとう衣服の瑠璃色が見る者を圧倒する。画家の最盛期の傑作は本邦初公開だそうだ▼続いて「美しきシモネッタの肖像」の真っ赤なマントが目に飛び込んでくる。こちらは日本国内で所蔵される唯一の作品。どちらも美しいが、宝玉のラピスラズリをたっぷり使った青の深みにより魅せられた▼情熱の赤に対し、沈着の青。色彩の好敵手はとても対照的だ。一般に人は青を最も好むと聞くが、男性は赤い服の女性が一番好き、という研究もあるそうだ。世界のどこでも同じ傾向らしい。脳研究者の池谷裕二(いけがやゆうじ)さんの著書『自分では気づかない、ココロの盲点』に教えられた▼ボクシングなどでは赤コーナーの方が青コーナーより勝率が高いという研究もあるという。赤は血や火の色、青は空や海の色。その違いが人の心身にも影響するのだろうか。

 

 

(天声人語)働かない働きアリの働き

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 働かない働きアリとは形容矛盾だが、アリの集団には常にそういう個体が2、3割存在するらしい。なぜか。彼らはむしろ集団に欠かせないのだという。北海道大准教授の長谷川英祐(えいすけ)さんらが先日、英科学誌に論文を発表した▼勤勉なアリだけの集団と怠け者の交じった集団をコンピューターを使った実験で比べると、後者の方が長く生き延びたという内容だ。皆が一斉に働く集団は、一斉に疲れて結局は誰も動けなくなる。卵の世話のような片時も手を離せない仕事もできなくなり、かくて集団は壊滅する▼一方、ふだんサボっているアリは、仲間が疲れて休むと代わりに働く。卵の世話をする。短期的には無用と見える個体が、長期的には実に有用なのだ。実際のアリの集団でも、怠け者のアリが同輩の仕事をカバーする様子が確認できたという▼人間界に目を転じると、働きが悪い会社員のことを「ローパフォーマー」というらしい。「ローパー」と略した言い方が殺伐と響く。こうした「非戦力社員」に退職を促す手法を、人材会社が企業に伝授していると報じられた▼辞めた人の再就職を支援する国の助成金が絡んでいる。雇用を守るためのお金が、逆にリストラを誘発しかねない構図という。厳しい競争環境とはいえ、効率の追求が度を越すと本末転倒になる▼長谷川さんらの発表資料にこうある。「昆虫に限らず、人間の組織を含め、短期的効率を求めすぎると大きなダメージを受けることがある」。何事も長い目で、と。

 

 

(天声人語)「立憲」という大義

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 土俵をつくることと相撲を取ることは、分けて考えなければならない――。民主党の枝野幹事長が10年以上前にそう言っていた。当時は党憲法調査会長。巧みなたとえ話だった▼土俵とは憲法を指す。国政運営の基本的なルールであり、どの政党が政権を取っても従うべき定めだ。これに対し、相撲を取るとは、政権の座や政策の中身をめぐる各党の競い合いを意味する。二つを区別せよとはどういうことか▼自民党が改憲という新たな土俵づくりを目指すなら、民主党との合意が欠かせない。なぜなら仮に民主党政権ができた場合も、その土俵に乗ることになるのだから。従って国政選挙という相撲を取るにあたっては、憲法を争点にしてはいけない、というのが枝野氏の主張だった▼隔世の感が深い。この夏の参院選は、まさに憲法が大きな争点にならざるをえない。集団的自衛権の行使を認める安倍内閣の閣議決定と安保法制は、野党から見れば、現行憲法という土俵を解釈変更によって掘り崩した暴挙に他ならないからだ▼民主党はじめ野党5党は、「立憲主義の破壊は許さない」の一点で手を組み、選挙協力を進めることになった。共産党は、参院選の1人区で多くの独自候補を取り下げる方針を決めた。野党各党の票が一本にまとまれば影響は大きい▼「野合」批判もあるだろうが、「立憲」という大義は小異を捨てるに値する。憲法論議を真摯(しんし)に深めるためにも、損なわれてしまった土俵を修復することが先決ではないか。

 

(天声人語)デジタルとのつき合い方

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 本紙の30代の同僚記者が、スマホや携帯電話、インターネットを原則として禁止して1週間過ごしてみた。その体験記を朝日新聞デジタルで読んだ。便利な半面、いつも縛られていると感じるので思い立ったという▼仕事場から固定電話で取材をする。なじんだ機器を使えず、イライラが募る。出先から会社に定時連絡をしたくても、公衆電話が見つからない。常に不安にさいなまれ、「期待した解放感はゼロだった」と書いている。確かに、休暇中ならともかく、普段通りに仕事をしながらの「デジタル断ち」は難しい▼当方は約1年間、スマホなしで暮らした経験がある。パソコンでネットにはつながるので仕事には困らなかったが、使用を再開してみると、たちまちスマホ依存の兆しが出た。いつでもどこでもの手軽さがうらめしく思える▼「デジタルデトックス」という言葉がある。電脳空間に浸り切ると体内に毒素がたまるような気がするのだろう。機器を封印することで、それを排出することをいう。過剰な接続を不健康と感じる人は少なくあるまい▼「折々のことば」の鷲田清一さんの著書に示唆的な言葉があった。画面の向こうに行きっぱなしになるのか、現実の世界に「別の眼(め)をもって還(かえ)ってくるのか」を考えよ、と▼先の同僚は今回の試みで一つ学んだ。酒席などで会話しながら相手にスマホを使われると、「かなり寂しい」ということを。従前、同じことを相手にしてきた同僚は、「別の眼」をもったことになる。

 

 

(天声人語)文科相の「たられば」

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 「たらればの話」という言い方がある。現実とは違うことを仮定しながらの話、というほどの意味か。「かいのない議論」と手厳しい辞書もある。俗語である。馳文科相は23日の記者会見で、たらればの話だがと断って発言した▼「私が学長であったとしたら」。そんな前置きを何回か繰り返しながら語ったのは、国立大学の卒業式や入学式での日の丸、君が代の問題だ。「国旗掲揚、国歌斉唱を厳粛のうちに取り扱うと思っている」▼岐阜大の学長が今春の式で国歌斉唱をしない方針を示したことへの批判である。国立大は税金で支えられているのだから、式典ではすべての納税者に感謝し、国旗、国歌を重視すべきだ、という論理らしい。それをしないのは「恥ずかしい」と▼たらればの話として語るのは、大学の自治への介入という批判をかわす意図なのだろう。憲法は学問の自由を保障し、教育基本法は大学の自主性と自律性をうたう。小中高校には学習指導要領があるが、大学にはない。斉唱を指示する根拠がないことは馳氏も承知だ▼だが、大学運営に不可欠な国の交付金に「感謝」を促し、式次第に「適切な」判断を求めると言えば、圧力と受け取られても仕方がない。鎧(よろい)を隠す衣になっていない▼たかが式典、ではない。国歌斉唱の際の起立命令が思想?良心の自由を間接的ながら制約することは、最高裁も認めている。あの時もっと気をつけていたら……。そんな後悔をしないためにも、今、目を光らせる必要がある。

 

(天声人語)文化庁が京都に移転?

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 このほど新書大賞に選ばれた『京都ぎらい』が面白い。建築史などを専門とする著者の井上章一さんは、京都市の嵯峨で育った。洛外と呼ばれる地域だ。市中心部の洛中の人々から田舎者呼ばわりされ、さげすまれてきたことへの恨み節が炸裂(さくれつ)している▼といって悪口ばかりでもない。例えば花街(かがい)の上七軒(かみしちけん)を、京都の人は洛中、洛外を問わず「かみひちけん」と発音する。「かみしちけん」を認めない点で両者は歩み寄れるという。井上さんの矛先は霞が関の中央集権的な国語政策に向かう▼千年の古都は奥が深いと思っていたら、文化庁が京都に全面的に移転する見通しになったという。政権の進める「地方創生」の一環である。中央省庁の本格的な引っ越しが実現すれば、強い印象は残すだろう▼確かに地の利はある。関西には国宝や重要文化財が集中し、古代遺跡も数多い。京都と奈良には定評ある博物館や文化財研究所がある。文化庁に似合いの土地というイメージではある▼一方、文化庁は著作権制度や国語政策なども所管する。毎年の国語に関する世論調査は日本語の変遷を映して興味深く、小欄も折々紹介してきた。こちらの分野に移転の利点はあるのかどうか▼そういえば井上さんは先月の本紙京都版で、京都に文化庁は不要と語っていた。国語政策へのあの腹立ちが理由ではない。井上さんを散々見下してきた京都人が、その誇りをかなぐり捨てて誘致に走るのを見るのは釈然としないからだという。京都は奥が深い。

 

(天声人語)小舟で気づく温暖化

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 米大統領選で話題をさらう不動産王トランプ氏は、毒づいたり難癖をつけたりする方面の語彙(ごい)が実に豊かだ。うそ。デマ。詐欺。たわごと。恥を知れ。口を極めて全否定するものの一つが地球温暖化である▼寒い日に「外の雪や氷を見ろ。温暖化対策など税のむだ遣いだ」とやる。「温暖化は米国産業界を倒すために中国人がでっち上げた説だ」と放言していたが、最近引っ込めた▼トランプ氏でなくとも、長期にわたる気候の変化となるとなかなか体感しにくい。けれども先日、取材先の徳島市で小舟に乗って橋を次々にくぐった時は、20年間に生じたという潮位の変化をまざまざと実感した▼地元で「ひょうたん島」と呼ばれる中州を一周した。あらかじめ屋根を外したボートだが、乗客が一斉に席で足首をつかんで前屈しないと低めの橋を通れない。舵(かじ)をとって24年、環境NPO代表の中村英雄さん(77)は「いやもう毎日が異常潮位。冬場でも目算で10センチは予測値より高い。前屈しても通れない日は航路を変えます」▼米航空宇宙局(NASA)の観測によれば、この20年で世界の海面水位は8センチも上がった。橋をくぐる舟やゴンドラによる事故や渋滞の報がベネチアなど各地の水の都から届く▼さて何ごとも大きめに言うトランプ氏だが身長は自称190センチ、推定188センチ。訪日の機会があれば、ぜひ徳島のひょうたん島までお越しいただきたい。満潮時にはよほど身をかがめないと、橋桁に頭をぶつけて泣くことになるだろう。

 

 

(天声人語)2月の言葉から

20162290500

 きょうは閏日(うるうび)。1年365日の端数として余る約6時間を積み立てて、いわば4年満期で授かる1日だ。片や現実の暮らしでは、マイナス金利に不安も漂う2月の言葉から▼戦前に夭折(ようせつ)したハンセン病の作家、北條民雄を読み継ごうとする動きが広がっている。「すみれ」という童話もよみがえった。片隅に一輪咲くすみれが、〈どんなやまのなかでも、たにまでも、ちからいっぱいにさきつづけて、それから わたし かれたいの。それだけがわたしのいきているつとめです――〉。命を見つめる澄みきった目がある▼元プロ野球の清原和博容疑者が覚醒剤で逮捕された。旧友の桑田真澄さん(47)が「野球はピンチになれば代打やリリーフがあるけど、人生にはそれがない。彼はそれがわかっていると思う」。更生を願う一言だ▼俳優の仲代達矢さん(83)率いる私塾「無名塾」が創立40周年を機に東京での記念公演の準備を進めている。稽古場の額に直筆で「若きもの名もなきもの ただひたすら駈(か)けのぼる ここに青春ありき 人よんで無名坂」▼原発事故のあと父親を自死で亡くした福島県の農業樽川(たるかわ)和也さん(40)が言う。「人が作ったものはいつか必ず、ぼっ壊れんだ、自然の力にかなうわけねえんだって、おやじが言ってた通りになったんだから。して、5年もたって、まだ誰も責任とってねえんだから」▼〈原発の再稼働また一基増ゆさして大きく騒がれもせず〉と朝日歌壇に荻原葉月さんの一首。大震災から5年が近づく。

 

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