どじょうを飼う知人がいる。名前は「どーちゃん」。おとなしくて、台風が接近すると底砂に隠れてしまう。そのくせ、すきを見て水槽を飛び出す瞬発力を備えているそうだ。臆病だが機敏、というのが飼い主殿の観察である▼「どじょう演説」の野田首相にも似た味がある。いつもはのらりくらり、慎重を旨としながら、ここ一発の意地は侮れない。きのうの年頭記者会見も一点突破の趣だった▼抑揚を欠いた受け答えの中で、こと消費増税だけは「先送りできない」と重ねて力を込めた。ついには高校で教わったチャーチルの言葉を引いて、「ネバー、ネバー、ネバー、ネバーギブアップ」ときた。水槽を飛び出す覚悟とみえる▼党内基盤が万全でない首相が不退転を口にし、なにやらキナ臭い年明けである。小沢元代表は「決起」のタイミングを計っている風だし、自民党は「日本の存亡をかけた政治決戦の年」と大きく出るらしい。「維新」を叫ぶ大阪市長らも国政への参戦をにおわす▼世界も選挙の年。オバマ大統領が再選を目ざす米国では、共和党が挑戦者選びに入った。ロシアやフランス、韓国でも大統領選がある。国を過(あやま)つ者は必ず民意に反撃される。投票にせよ、蜂起にせよ▼中東のように命をかけず、為政者を選び直せる幸せを思う。リーダーならずとも、いつも以上に立派なことを言うのが年頭の常だが、その言葉が軽すぎ、何人もの首相が選挙を待たず去った。「ネバーギブアップ」の重さ、しかと見極めたい。