第10章 商談での断り方
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ここでは主に商談の最終段階である金額提示の場面を取り上げました。受けるときは「けっこうです」でいいのですが、断るのは難しいものですし、様々なニュアンスの断り方が存在します。また、取引先からの贈り物や接待に対して、ビジネスマンはどう対応すればいいか、この章を参照してください。
1、 商談
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(1) はっきり断る
<無理な要求を拒絶する>
取引先:この線でお願いしたいのですが、・・・。
李 :申し訳ございませんが、ご希望には添いかねます。
取引先:そこを、ぜひ何とかお願いします。
李 :残念ですが、この線は当社としてもお譲りするわけにはまいりません。
<再度の譲歩を迫る>
取引先:このくらいでいかがでしょうか。
李 :ご無理をおっしゃらないでください。これではとても話になりません。
取引先:私どもといたしましても、最大限の譲歩をいたしたつもりですが、・・・。
李 :しかしながら、これではお受けいたしかねます。再検討願えませんか。
<限定して断る>
取引先:いかがでしょう。この案では?
李 :申し訳ございませんが、この条件では当社としてはお受けできないので、今回は見送りということにさせてください。
取引先:そうですか。残念です。
李 :また、次の機会にと。
常套表現と解説
・ このくらいでいかがでしょうか
この線でお願いしたいのですが
このくらいで折り合えないでしょうか
これで何とかお願いしたいのですが
・ ご希望には添いかねます
ご無理をおっしゃらないでください
これではとても話になりません
これではお受けいたしかねます
今回の件に関しては見送らせてください
今回は見送りということにさせてください
・は商談の場での金額提示に使われる常套表現です。さて断り方ですが、・は曖昧さを残さないはっきりした断り方で、強く相手に譲歩を迫るときに使われます。ただし、商談決裂という事態も覚悟した言い方ですから、いつどのように使うかは慎重に検討した上で使った方がいいでしょう。
なお、「今回は~」や「今回の件に関しては~」は次回に含みを残した断り方で、この中では比較的柔らかい断り方になるでしょう。
(2) 保留、または婉曲に断る
<保留、または婉曲な断り>
取引先:このくらいで、お互い折り合えませんでしょうか。
李 :この額では、ちょっと・・・。当方の事情もお察しください。
取引先:そうですか。でも、もう少し勉強していただくわけにはまいりませんか。
李 :私個人の一存では、何ともなりませんので、上の者と相談して再度お返事するということでよろしいでしょうか。
取引先:はい、けっこうです。いいお返事をお待ちしております。
<保留、または婉曲な断り>
取引先:これで何とかお願いしたいのですが、いかがでしょうか。
李 :ええ、でも、・・・。
取引先:ご無理は承知の上で、そこをなんとかお願いできないでしょうか。
李 :困りましたねえ。少し考えさせてください。
<結論を先延ばしする>
取引先:こちらといたしましても、ぎりぎり勉強させていただきました。これでぜひお願いしたいのですが、・・・。
李 :ええ、その点は私もよく承知しておりますが、もう少しお時間をいただけないでしょうか。
取引先:私も上司に急かされておりまして、できれば、近日中にお返事をいただきたいのですが。
李 :でも、私どもも検討してみますので、また次回にということで。
常套表現と解説
・ そこを何とかお願いできないでしょうか
無理を承知の上で、そこを何とかお願いいたします
当方の事情もお察しください
・ 私個人の一存では何ともなりませんので
上司と相談してからでないと
・ 少し考えさせてください
検討してみますが、・・・
・ もう少しお時間をいただけないでしょうか
また次回にということで
・は相手に再考慮を頼む言い方です。特に「無理を承知の上で」や「そこを何とか」はこうしたときの常套表現です。
さて、ここで取り上げたのは日本的な婉曲な断り方ですが、・は会社における自分の立場を訴え、自分の一存ではないことを伝える表現で、相手に諦めて欲しいときに使われています。また、この表現を使えば相手から恨まれなくてすみますから、ビジネスマンにはぜひ覚えて欲しい断り方です。・は言葉どおりに受け取れば「再検討」ですが、実際はよくて保留、あるいは面と向かって断ることがはばかられるときに使われる婉曲な断りとして使われることが多く、日本人の代表的な曖昧語の一つです。なお、・は即答を避けて、結論を先延ばしするときに使われます。
(3) 商談決裂時の別れ際の言葉
<一般的な別れ際の言葉>
李 :これに懲りずに、今後ともよろしくお願いいたします。
取引先:ええ、またのご縁があろうかと思いますので、その節はよろしくお願いいたします。
李 :いいえ、こちらこそ。これをご縁に弊社をお引き立てください。
<同情型の別れ際の言葉>
李 :今回はこういう結果になりましたが、私の立場もご理解ください。
取引先:ええ、私も十分その点は承知しております。今回のことはともかくとして、次の機会にはぜひ、・・・。
李 :こちらこそ、そう願えれば。
取引先:ほんとうに、私もご無理を申し上げまして。
李 :いいえ、お互い一サラリーマンの身の上ですから、・・・。
常套表現と解説
・ 今回につきましては、ご無理を申し上げて、誠に申し訳ございませんでした
今回はこういう結果になりましたが、私の立場もご理解ください
これに懲りずに今後ともよろしくお願いいたします
・ 今回のことはともかく、次の機会にはぜひ、・・・
またのご縁があろうかと思いますので、その節はよろしくお願いいたします
商談がまとまらなかったときでも「またのご縁があろうかと思いますので、その節はよろしくお願いいたします」と一言添えていれば、取引先との関係は継続します。これはビジネスマンの心得でしょう。
なお、取引相手がよく知っている人の場合、プライベートな感情も少し加えて(2)のように言えば、お互いに親密な関係が維持し続けられるでしょう。
2、 贈り物
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(1) 会社の規則を理由に断る
取引先:今回はほんとうに李さんにはお世話になりました。これ、当社からの心ばかりのものですが、・・・。
李 :このようなお気遣いは困ります。
取引先:そんなことをおっしゃらないで、どうぞお受け取りください。
李 :申し訳ございませんが、会社の規則で受け取れないことになっておりますので。
取引先:そんなお堅いことをおっしゃらないで。
李 :いえ、やはりいただくわけにはまいりません。
(2) 丁重に断る
取引先:今回、無事に契約が終了いたしましたのも、李さんのおかげです。これ、私からのほんの気持ちです。
李 :いや、それは困ります。
取引先:大したものではございませんから、ぜひご家族で召し上がってください。
李 :いえ、やはりいただくわけにはまいりません。お気持ちだけちょうだいいたします。
常套表現と解説
・ これ、心ばかりのものですが
これ、ほんの気持ちですが
・ このようなお気遣いは困ります
会社の規則で受け取れないことになっておりますので
お気持ちだけちょうだいいたします
立場上、いただくわけにはまいりません
「賄賂」と誤解されたりすることもありますから、基本的にはこうした贈り物は受け取らない方がいいですね。ただし、日本にはお中元やお歳暮という贈り物の習慣がありますから、これは受け取らないというわけにはいきません。
3、 接待
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(1) 親睦型の接待の受け方・断り方
<受ける>
取引先:いかがでしょう。お近づきの印に、今夜おつきあい願えませんか。
李 :そうですね。私も今日はこれで仕事もありませんし、喜んでご一緒させていただきます。
取引先:では、○○時に一回ロビーでお待ちしておりますので。
李 :はい。ではその時。
<断る>
取引先:いかがでしょう。お近づきの印に、今夜おつきあい願えませんか。
李 :せっかくですが、今日はこの後、他の得意先回りが残っておりますので。
取引先:そうですか。残念ですねえ。
李 :またの機会に、ぜひ。
(2) 商談型の接待の受け方・断り方
<受ける>
取引先:いかがでしょう。場所を変えて、この話の続きをするということにいたしませんか。会社では、どうしても本音のところが話せませんから。
李 :ええ、それもいいですね。では、
取引先:では、早速、でかけましょう。近くになじみの店がありますので。
李 :ええ、お供させていただきます。ちょっとすみませんが、会社の方に電話を掛けてまいります。
<断る>
取引先:いかがでしょう。場所を変えて、率直なところを話し合いませんか。
李 :ええ、しかし、私は一営業担当に過ぎませんし、それに、不調法ながら私はお酒が飲めませんので。
取引先:そうですか。それでは無理にとは申せませんね。
李 :申し訳ございません。
常套表現と解説
・ 喜んで、ご一緒させていただきます
お供させていただきます
・ せっかくですが、まだ仕事が残っておりますので
せっかくですが、得意先回りが残っておりますので
あいにく、今日は息子の誕生日でして
ぜひお供させていただきたいのですが、あいにく今日は~ので
不調法ながら、私はお酒が飲めませんので
日本人が「おつきあい願えませんか」とか「場所を変えて」という場合、ほとんどの場合、酒の席です。これ以外にも接待ゴルフ、接待麻雀などがありますが、ここでは取り上げていません。ただ、ビジネス上の接待の受け方や断り方には決まった言い方がありますから、覚えておきましょう。
さて取引先から接待を受けたとき、ビジネスといえども人間関係が基本ですから、よほどの理由がない限り断らない方がいいでしょう。ただし、忘れてはならないのは、接待を受けたら必ず接待して返すことで、常に五分五分の関係を維持しておかなければなりません。でないと対等な交渉が成立しなくなる恐れがあります。これはビジネスマンが常に心がけておくことでしょう。
断りには仕事を口実にするのが一番ですが、それでも強く誘われたら、「不調法ながら私はお酒が飲めませんので」とか、「あいにく、今日は息子の誕生日でして」のように家庭の事情を話せば、たぶん相手はそれ以上言わないでしょう。