(天声人語)名刀「山姥切」を拝む
2017年4月2日05時00分
ときは西暦2205年、歴史改変をもくろむ無法者らと闘う陸奥守吉行(むつのかみよしゆき)、加州清光(かしゅうきよみつ)、歌仙兼定(かせんかねさだ)たち。人気のゲーム「刀剣乱舞」には絶世の美男子と化した名刀が次々登場する▼そのひとり山姥切国広(やまんばぎりくにひろ)は、切れ味十分ながら少しひねくれた性ログイン前の続き格。端麗すぎる自分の容姿を恥じて、わざとみすぼらしいボロ布をまとう▼「本物の山姥切国広はたしかに端麗です。切っ先が大きく刃文(はもん)もみごとです」と栃木県足利市教育委員会の片柳孝夫副主幹(52)。安土桃山期の刀工堀川国広の傑作である。足利市立美術館できょうまで展示されている▼片柳さんが驚いたのは、「ゲームで山姥切国広にはまった」という20代、30代女性の多さ。寒い朝も数十人が開館を待って列をなす。館側は整理券を配り、テントを張り、開館を早めた。1カ月間で約3万7千人が訪れた。1994年の開館以来、最も多い入場者である▼もとは足利領主が国広に作らせた刀だという。この刀をふるって武士が山姥を退治したという伝説が残る。真偽はともかく、刀身を間近で見ると、曲線が力強い。表面を覆う白の奥に鉄本来の青が透けて輝く▼魅力の一端はわかった気がするが、それにしても名刀を取りまく女性陣の熱には気おされた。「やまんば様」と両手を合わせる女性もいる。憧れの王子にようやく会えたという感激の面持ちに見えた。作刀から400年。秀出した名工も、未来の女性たちから称賛のため息を浴びる日が来るとは、予想できなかったはずである。