(天声人語)新入社員F君
2017年4月3日05時00分
「わが社の燃費測定は法規に反しています。過去の燃費データの流用もあります」。三菱自動車に入社して1年目の社員F氏が2005年の冬、社内の研修会で訴えた。だが上司たちは聞き流してしまう。改善策は講じられなかった▼同社に対する第三者委員会の調査によると、燃費不正は昨春まで延々25年間も続いた。組織がたログイン前の続きこつぼ化し、会社の一体感が損なわれていたと指摘された▼このところ有名企業が相次ぎ苦境に陥る。大揺れの続く東芝では「上司に逆らうことができない企業風土」が問題視された。現場の貴重な指摘を上層部がもみ消す「年寄り体質」が背景にあるとされた▼思い出すのは、山一証券が破局に向かう最後の数年間である。巨額の債務を隠そうとする経営陣に社員が緊急の役員合宿を提言する。「すべてを明らかにし、徹底的に議論して対策を立てるべきだ」。合宿先の予約もしたが、首脳らの反応は鈍かった。自主廃業から今年で20年になる▼さて、きょう三菱自動車を含む多くの職場で入社式が開かれる。新社会人となるのは、無理を強いるブラックバイトや大企業での過労ぶりを見聞きしてきた世代だ。職に就くにあたって胸にあるのは希望か、それとも不安だろうか▼かつての新入社員F氏はいまどうしているのだろう。中堅社員として三菱自動車の再建に奔走中か。あるいは社の体質に失望して離職したかもしれない。職種は違っても、若き同僚F氏の声に耳を傾ける気構えだけは失いたくない。