画題にする植物の組み合わせで「双清(そうせい)」といえば、梅と水仙をさす。どちらも人を励ますように、寒さの中へ清らかに花を開く。梅はまだ早いが、かれんに咲く水仙の一抱えを、福井の読者から送っていただいた▼福井の越前海岸は水仙の名所で知られる。正月花として家々にも活(い)けられたことだろう。すらりと伸びた葉の緑。花の白と、その中心を占める黄色は、燭台(しょくだい)に載ったともしびを思わせる。雪中でも香るが、少し部屋が暖まると、ほどけたように匂いはじめる▼英国の自然詩人ワーズワースの名高い水仙の詩が浮かぶ。〈谷また丘の上高く漂う雲のごと/われひとりさ迷い行けば/折しも見出(みい)でたる一群の/黄金色に輝やく水仙の花/湖の畔(ほとり)、木立の下に/微風に翻(ひるが)えりつつ、はた、躍りつつ……〉(田部重治訳)▼うたわれているのはラッパ水仙だという。冬枯れの寂しい山野にいち早く開く水仙は、かの地でも希望と喜びをもたらす花として親しまれたそうだ。日本でも「早春」の一語を真っ先に胸に呼び込む花だろう▼〈燕(つばめ)も来ぬに水仙花/大寒(おおさむ)こさむ三月の/風にもめげぬ凜々(りり)しさよ〉はシェークスピアの戯曲「冬物語」から抜粋した上田敏の名訳詩。洋の東西で、寒さにひきしまる咲き姿に、清と凜(りん)のイメージがよく似合う▼列島は寒の入りをくぐったばかり。これからが冬物語の本番になる。ぱちりと開いた花をのぞき込んで、早春までの距離を思う。近からず、されど遠からじ――花の精の声をどこからか聞く。