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天声人语(2016年5月份)

来源:日语港 作者:日语港 时间:2016-05-31 阅读:4767

禁止用于商业用途

(天声人語)有田焼400年

 

2016510500

 春恒例の「陶器市」が佐賀県有田町で開かれている。熊本地震の影響が心配されたが、客足はまずまずのようだ▼有田焼発祥400年の節目の年である。豊臣秀吉による朝鮮出兵の際、のちの佐賀藩祖?鍋島直茂が陶工らを引き連れて帰国した。そのひとり李参平が1616年、有田の地で良質な石鉱を見つけ、日本で初めて磁器をログイン前の続き焼いた。以後子孫は有田に根を下ろした▼14代目にあたる金ケ江(かながえ)省平さん(55)によると、6代目が窯を閉じ、13代目にあたる父が再興した。「初代が日本へ来なければ自分も有田焼も存在しない」というのが父の口癖だった▼跡を継いだ省平さんはこの地で腕を磨く。日韓交流の作陶や展示のため韓国を訪れると、参平の名を知る人はきまって「よくぞ故国へ」と歓迎してくれる▼かと思うと、東京の韓国大使館のそばで「日本から出て行け」と叫ぶ集団に遭遇したこともある。これがあのヘイトスピーチかと驚いた。「ありがたいことに初代は陶祖と敬われ、神社にまでまつられた。これまで日韓がおかしくなったのは秀吉の出兵時と韓国併合の時くらい。ほかは常に友好的だったのに」▼陶芸に限らず、文字や律令、宗教まで大陸や半島から教わっては磨き上げる。それが日本の歩んだ道である。文化や人種の違いをあげつらい、なにが日本固有で、どれが韓国由来か、まくし立てることにどんな意味があるのだろう。14代目の焼いた皿や瓶に触れ、4世紀にわたる融合の歳月を手のひらで受けとめた。

 

(天声人語)本塁上のクロスプレー

2016520500

 東京?神宮球場で先日、数年ぶりにプロ野球の試合を見た。見ごたえある打撃戦だったが、印象に残ったのはむしろ本塁上の静穏さ。走者と捕手の交錯が見られなかったことだ▼今季から走者による体当たりや捕手による危険なブロックが禁止された。ほぼ同じルールを米大リーグが一昨年導入している。本塁での負傷が深刻になりログイン前の続き、迫力が売り物の大リーグでさえ安全策に転じた▼走塁はいつから激しくなったのだろう。野球ルールの変遷に詳しい松山東高野球部OB会の一色隆士さん(67)は、米国で1世紀前、走塁革命を起こした「球聖」タイ?カッブの名を挙げる。塁上で野手に足払いをかけ、スパイクで野手の手足を踏んだ。「反則ぎりぎりの走塁法。荒っぽい走りが人気を呼んで、野球全体がラフになりました」▼OB会は、同校出身の正岡子規が残した随筆「松蘿玉液(しょうらぎょくえき)」を手がかりに、明治時代の野球規則を調べた。投手は下手投げのみ。ワンバウンド打球も捕ればアウト。ストライクゾーンは打者の申告で動き、盗塁は一切なかった▼このルールに従い、14年前から近隣のチームと折々に実戦を楽しむ。「やってみると試合はのんびり進む。危険なクロスプレーもない。野球は本来、こんなにのどかなスポーツだったのかと驚きます」▼子規の随筆の行間からは明治期の球場に響いたはずの選手たちの歓声が聞こえる。過度に興行化され、きわどいプレーがもてはやされる前まで、各国の球場で聞こえた素朴な歓声である。

 

(天声人語)阪神支局事件29年

2016530500

 昨夏亡くなった小尻みよ子さんが俳句を詠み始めたのは息子を失ったのがきっかけだった。朝日新聞阪神支局の記者だった知博さんは1987年の憲法記念日

 

(天声人語)香港と日本の報道界

2016540500

 ひと昔前まで、香港の新聞や雑誌は「報道の自由」の旗を高く掲げ、中国共産党や財界の不正に果敢に切り込んだ。だが近年は様子が違う。本土の影響が強まり、親中派の意向が経営陣の顔ぶれや報道内容に色濃く表れるようになった▼先月末、ある香港紙の編集幹部がいきなり解雇された。租税回避の実態をあばいたパナマ文書をログイン前の続き詳報した当日のことだ。あの文書には党中央が神経をとがらせている▼ラジオでは、鋭い政府批判で人気の司会者が降板させられた。「香港政府が局に圧力をかけた。放送免許更新という魔の呪文に局がひざまずいた」と司会者は明かした。親中派企業は占拠デモの参加者ら民主派に近いメディアへの広告を急減させた▼驚いたことに先日発表された国際調査では、そんな香港よりも、日本の方が「報道の自由」度が低いと判定された。世界180の国と地域を調べた国際NGO「国境なき記者団」が、香港を69位、日本を72位とした▼上位には北欧や西欧の国が並び、下位には独裁国が目立つ。西欧中心の見方ではないかと思うものの、72位という順位には記者として自責の念を抑えがたい。報道の将来を思うと、焦燥感がこみ上げる▼それにしても、昨今の自民党議員らによる居丈高な物言いは、やはり常軌を逸している。担当相が放送局に電波停止をちらつかせ、議員が報道機関を懲らしめる策を勉強会で披露する。あの種のふるまいがなければ、日本がここまで評判を落とすことはなかっただろう。

 

(天声人語)90歳の絵本作家

2016550500

 こどもの日のきょう、家や書店、図書館でこの作家の本を手にする方は少なくないだろう。「からすのパンやさん」「だるまちゃんとてんぐちゃん」。作者かこさとしさんが卒寿を迎えた▼「だるまちゃん」シリーズは来年で50周年。もともとはてんぐちゃんが主役のはずだった。「鼻からの連想でピノキオの二番煎じと言われるログイン前の続き」と脇役に替えた。天狗(てんぐ)、天神、大黒、仁王らのほか、構想中の役が200もあるそうだ▼科学絵本でも新境地をひらいた。取りあげたのは海、川、光、脳、骨、原子、呼吸、物質、地震、地球、太陽、宇宙、時間。児童向けとなれば一級の科学者でもしり込みしそうな主題に挑んだ。細部まで描きこまれた鳥瞰図(ちょうかんず)が大人の読者も魅了した▼福井県生まれ。中2から軍人を志した。19歳で終戦を迎え、自分の世界観の狭さを悔やむ。「自身を含めて大人の言うこと考えることは信用できないと悟った」▼未来を見すえて懸念するのは、豊かな土壌が各大陸で失われつつあることだ。「100億人に達する世界人口はやがて賄えなくなる。食物の争奪が起きて戦争を招く」。何千年もの失敗を重ねながら私たちはなお戦争を止める知恵をもたない▼作品を貫くのは子どもの感性に対する敬意だろう。演劇や紙芝居で子どもたちと長く接した。大人には好評でも小中学生がそっぽを向くのはなぜか。絵と文だけで若い世代に何を伝えられるのか。90歳のいまも毎朝4時に起きて20代と変わらぬ難題と格闘している。

 

(天声人語)90歳の絵本作家

2016550500

 こどもの日のきょう、家や書店、図書館でこの作家の本を手にする方は少なくないだろう。「からすのパンやさん」「だるまちゃんとてんぐちゃん」。作者かこさとしさんが卒寿を迎えた▼「だるまちゃん」シリーズは来年で50周年。もともとはてんぐちゃんが主役のはずだった。「鼻からの連想でピノキオの二番煎じと言われるログイン前の続き」と脇役に替えた。天狗(てんぐ)、天神、大黒、仁王らのほか、構想中の役が200もあるそうだ▼科学絵本でも新境地をひらいた。取りあげたのは海、川、光、脳、骨、原子、呼吸、物質、地震、地球、太陽、宇宙、時間。児童向けとなれば一級の科学者でもしり込みしそうな主題に挑んだ。細部まで描きこまれた鳥瞰図(ちょうかんず)が大人の読者も魅了した▼福井県生まれ。中2から軍人を志した。19歳で終戦を迎え、自分の世界観の狭さを悔やむ。「自身を含めて大人の言うこと考えることは信用できないと悟った」▼未来を見すえて懸念するのは、豊かな土壌が各大陸で失われつつあることだ。「100億人に達する世界人口はやがて賄えなくなる。食物の争奪が起きて戦争を招く」。何千年もの失敗を重ねながら私たちはなお戦争を止める知恵をもたない▼作品を貫くのは子どもの感性に対する敬意だろう。演劇や紙芝居で子どもたちと長く接した。大人には好評でも小中学生がそっぽを向くのはなぜか。絵と文だけで若い世代に何を伝えられるのか。90歳のいまも毎朝4時に起きて20代と変わらぬ難題と格闘している。

 

(天声人語)システム障害という沼

2016570500

 大型連休ゆえの混雑なら少しも驚かないが、新幹線の駅で見上げる電光掲示板が一斉にダウンしたのには面くらった。切符を買ったはいいが発車時刻や番線がわからない。東北、上越、北陸の新幹線44駅で同時に起きた▼JR東日本によると、新幹線を集中管理するシステム「コスモス」の不具合らしい。旅客案内装置が処理できログイン前の続きる運行本数は2日間で1600本まで。それが臨時増便で1606本に達した。わずか6本の超過でシステムが音を上げた▼「故障中」「新幹線は運転しております」。連休中のJR社員が大勢駆り出され、案内を手書きしては貼り替える作業に追われた。新幹線は終日ダイヤ通り走ったのに、駅構内の混乱は最終便まで続いた▼コスモスはJR東と日立製作所が開発した。秩序の象徴たるコスモスが損なわれると一瞬でカオスの淵(ふち)がのぞく。他業界はより深い沼に沈んだ。やはり巨大メカニズムに頼る全日空は3月に、日本航空も4月にシステム障害で欠航した。東日本大震災の際にはみずほ銀行が機能を失った。義援金の振り込みが集中したためだ▼日立出身で、情報システムに詳しい西垣通?東大名誉教授は、自作の小説「コズミック?マインド」で警鐘を鳴らす。「コンピューターはコスモスではない。だれもが迷う密林だ」「整然としたコスモスが一瞬でカオスに転化する」▼鉄道、航空、金融。日々の暮らしを支える巨大システムは、頑丈な鉄橋に見えてその実、細くもろい吊(つ)り橋だったと知る。

 

(天声人語)母と子の季節

2016580500

 作家の落合恵子さんにとって介護は、「母との再会」を意味していた。互いに愛情表現が下手で、何となく距離を取ってきたが、「もうベタベタしよう」と考えた。認知症の母と、これからは手をつないで歩こうと▼介護を始めて4年ほどたった頃、母から「お母さん」と呼ばれた。症状が進んで、娘だということも分からないようログイン前の続きだった。ショックで泣いた。それでも「母が私を『お母さん』と呼ぶなら、とびきりのお母さんをやろうじゃないか」と気持ちを切り替えたと、インタビュー集で語っている▼世に季節があるように、親との関わり方も移り変わる。お母さんがすべてだと感じる幼いときは、それほど長くない。〈オムレツを焼く母がいてこの人をいつより“ママ”と呼ばなくなりしか〉森本平(たいら)▼気持ちに距離が生まれる青年期があり、最後は看(み)取りの時も来る。母の日のきょう、「ありがとう」と言いたいお母さんは、近くにおられるだろうか▼人生の季節が巡るのを切に感じるのは、親も同じだろう。歌人の故?河野裕子(かわのゆうこ)さんはこう詠んだ。〈さびしいよ息子が大人になることも こんな青空の日にきつと出て行く〉。歌ができた数年後に息子は家を去ったと、評伝にある▼カーネーションはいずれ、母の日の主役を譲ることになるかもしれない。そう思わせるほどアジサイやバラが花屋さんの軒先にあふれていた。感謝の仕方も、多様であっていい。あえて言葉にしなくてもいい。でも言葉にできるなら、もっといい。

 

(天声人語)北朝鮮、36年ぶりの党大会

2016590500

 襲名披露といえば、芸に生きる者の晴れ舞台である。動物の鳴きまね芸で知られ、先頃亡くなった四代目江戸家猫八さんの場合は、東京の上野動物園だった。寄席ではなく、声帯模写の「先生」たちのいる場所で芸を披露し、拍手を浴びた▼まるで襲名披露のようなこちらの会場も、拍手だけは大きいようだ。北朝鮮で36年ぶりにログイン前の続き開かれた朝鮮労働党大会。独裁国家の3代目である金正恩(キムジョンウン)第1書記は、カリスマ性のあった祖父?故金日成(キムイルソン)国家主席をまねるかのようにスーツ姿で現れた▼正恩氏がいま打ち出すのが、核開発と経済の立て直しを同時に進める「並進路線」だ。大会の報告でも、「責任ある核保有国」の言葉を使い「人民経済発展」を語った▼核に集中して他の軍事費を抑え、経済に力を入れるという理屈のようだ。だが、これは追えるはずのない二兎(にと)である。核にこだわれば外国の投資は期待できず、貿易も伸びない。経済は、国内の「足し算引き算」で片づく話ではない▼昨秋平壌を訪れた韓国の研究者によると、当局から厳しくチェックされたのは、持参したUSBメモリーをきちんと持ち帰るかどうかだった。韓国ドラマなどを見るのに使われているという小さな機器に、神経をとがらす。経済発展には広い意味での自由が必要だが、認めたくないようだ▼祖父はまねても、多くの社会主義国から助けられていた過去は戻せない。勢い無謀な核開発に走る。国民でなく王朝を守るような姿勢は、いつまで続くのだろう。

 

 

(天声人語)音楽と政治の危うい関係

20165100500

 続きから読む すでに多すぎるほどの物議をかもしてきた不動産王トランプ氏が名だたるバンドからかみつかれた。エアロスミスなどに続いて今度はローリング?ストーンズから「おれたちの曲を勝手に使うな」と抗議された▼思い出すのは1984年の米大統領選。再選を狙ったレーガン陣営が、ヒット曲「ボーン?イン??USA」を運動に使おうとし、歌手ブルース?スプリングスティーン当人から拒まれた▼力強いリズム。しぼり出すような声。「おれはアメリカに生まれたんだ」という叫びに陣営が飛びついた。「スプリングスティーン氏は若者の心をつかんだ。曲にこめられた思いは米国の未来そのものだ」。大統領自身、遊説先で名をあげてほめそやした▼しかし歌詞の内容は政治不信そのものである。戦地ベトナムで死んだ若者の無念を代弁し、帰還兵に仕事も敬意も与えない政治の冷たさを告発した。そんなメッセージの曲と知っても、陣営は再選の道具として欲した▼音楽が人々を奮(ふる)わせる様子を目にすると、政治は禁欲を忘れる。ヒトラーは自国の指揮者フルトベングラーに一方的に心酔した。ナチスが策をろうしヒトラーの生誕を祝う会でタクトを振らせる。ベートーベンの「第九」を指揮する姿を映画に収め、国威発揚に使った。指揮者は戦後、ナチスに協力した疑いで法廷に立たされる▼さて共和党内で優位に立ったトランプ氏だが、選挙戦は11月まで続く。この先、抗議を受けずに使える曲の手持ちはあるのだろうか。

 

 

(天声人語)脱サラして鵜籠編む

20165110500

 岐阜県の長良川ではきょうから鵜飼(うか)いが始まる。10月半ばまでほぼ連日続く漁には欠かせない籠が二つある。主役の鵜を運ぶ「鵜籠」と、捕った魚を鵜がはき出す「吐け籠」である▼長良川流域では竹職人石原文雄さん(80)がただひとり鵜籠を手がけてきた。数年前に体調を崩し、思うように作れなくなった。鵜匠たログイン前の続きちはやむなく修理をしては手持ちの籠を使い続けた▼技術を受け継いだのは、隣の愛知県から通う元会社員鬼頭伸一さん(63)。勤め先で中間管理職になったころから、毎日が窮屈に感じられた。56歳で転身し、岐阜県立の専修学校?森林文化アカデミーで竹工芸を学んだ▼石原さんの作品を採寸し、図面に落とした。竹は奥が深い。編む仕事の前に切る、割る、そろえる、角を削るという工程が続く。作品のよしあしは、編み方よりも、編む素材をどう整えたかで決まるという▼籠の供給に1年ほど空白が生じたものの、何とか再開にこぎつけた。さらに兵庫県出身の前西千寿香さん(30)という若い仲間も加わって、鵜飼いに携わる人々はホッと息をついた。〈並べ干す鵜籠の竹の新しき〉辻本時子▼夜ごと川面を鵜舟が滑り、かがり火のもと鵜がアユを追う。美濃を支配した信長はもちろん家康や芭蕉、来日したチャプリンもその美をめでた▼鬼頭さんも前西さんももともと鵜飼いとは縁がなかった。気負いなく竹に魅せられた二人によって籠作りは息を吹きかえした。鵜飼い1300年の歴史は明日へつながっていく。

 

(天声人語)米大統領に望むこと

20165120500

 「トルーマン大統領による原爆投下の決断を正しかったと思う人は手を挙げて」。米テキサス州の中学校で先生が生徒に尋ねた。約30人のうち挙げなかったのはひとり。日本出身の15歳の女の子だけだった▼「日本人として原爆の恐ろしさを伝えるすべはないかと考えていた。私は憤り、悲しくなった。未来への不安が私の胸をログイン前の続き占めた」。その思いは朝日新聞の投書欄に掲載された。1994年春のことだ▼同じころ米国ではスミソニアン博物館の準備していた「原爆展」が非難の嵐にさらされた。博物館は被爆地の写真や遺品の収集に力を入れたが、退役軍人や議員らは広島投下機エノラ?ゲイに焦点を絞るよう迫った。原爆展は結局、中止に追い込まれ、機体だけが展示された▼そのころ留学中だった筆者は、米国流の原爆容認論に深く幻滅した。キノコ雲の下に現れた地獄絵を直視せず、広島と長崎の上空での「戦果」を語る人のあまりの多さに失望した▼広島平和記念資料館には、13歳だった男子中学生の遺品がある。母が朝もたせた混ぜご飯の弁当だ。熱線で黒こげになった状態で、遺体の下から見つかった。幻の原爆展のため現地へ運ばれたが、むなしく持ち帰られた▼オバマ米大統領が広島訪問を決断した。遅きに失した感はあるが、71年前の地上の惨状を見ずして「核なき世界」を語ることはできない。大統領にはぜひ、被爆者の語りに耳を傾けてほしい。母の弁当を抱いて焼かれた中学生の最期に思いをはせてほしい。

 

(天声人語)蜷川幸雄さん逝く

20165130500

 だれしも若いころは自分の才能を疑う時期がある。あまり売れない俳優兼演出家だったころの蜷川幸雄さんもそうだった。埼玉県川口市の団地の玄関先に「蜷川TENSAI」という表札を掲げた。自分を追い込むためである▼「天才」の看板をあげれば、さぼるわけにはいかない。映画を見て本を読んで懸命に演出を独学した。たログイン前の続きだ、「蜷川天才さーん」と廊下に響く集金人の声にはさすがに赤面したそうだ▼高校生のころには油彩画家を夢見ながら、劇場に通った。東京芸大の受験に失敗して画家を断念。劇団の道へ進んだ。「キャンバスに絵の具をたたきつけるより、自分の生理に合っている」と感じた▼演劇界の第一線を疾走し続けた蜷川さんが、亡くなった。シェークスピア劇やギリシャ悲劇を日本の美意識に合うよう翻案した。仏壇や石庭、行灯(あんどん)など日本の美を舞台に取り入れ、観客の視覚を圧倒した▼反骨の人でもあった。暴力団との交流が報じられた歌手が、紅白歌合戦の出場を断念すると、「善も悪も混沌(こんとん)とした芸能を規制、管理するのは容認できない」とNHKを批判。局側は「出場を見送るよう要請してはいない」と説明したが、特別審査員の仕事を降りた。30年前の大みそかのことだ▼創作意欲は衰えず、「回遊魚になって仕事を続けたい」と本紙に語った。自著には「最後まで枯れずに、過剰で、創造する仕事に冒険的に挑む疾走するジジイでありたい」と記した。言葉通り、最晩年まで舞台に情熱を注いだ。

 

(天声人語)メディチ家の相貌史

20165140500

 先祖は眼光鋭く、次世代は目におごりが浮かび、退廃のはてに緩みゆく。ルネサンス黄金期を築いたメディチ家300年の当主の肖像を見比べて、目の力が歳月とともに衰えるさまに驚いた▼東京都庭園美術館で「メディチ家の至宝」展を見た(7月5日まで)。主役はむろん絢爛(けんらん)たる宝飾品だが、なぜか当主のまなざログイン前の続きしの変化に魅入られた▼15世紀の当主ロレンツォは、いかにも開拓者然とした目つき。野心と自信がみなぎる。快活で外交にたけ、一門の威信を高めた人ならではの顔貌(がんぼう)である▼16世紀のコジモ1世は宝冠をかぶり、過剰なまでの威光を放つ。自らの容姿に陶酔したのか、肖像画や彫刻を作らせては客に贈る癖があった。家運は17世紀に傾く。最後の大公ジャン?ガストーネは投げやりな目が印象的だ。放蕩(ほうとう)があごをたるませ、瞳に陰をもたらす。国事には無関心だった▼メディチ家の没落は、そのままフィレンツェの衰退を意味した。金貸しからのしあがり、法王を出すほど栄えたが、浪費と醜聞の海に沈んだ。美術館を出るとき、近代日本の歩みを思った。富国強兵で国力を増し、敗戦からも再起した。だが近年は人口が減り、地方はさびれ、名門企業が勢いを失う▼右肩上がりの時代が去ったことはいまさら疑いようもない。もし国に相貌(そうぼう)というものがあるのなら、いまの日本はどんな顔つきをしているのだろう。目に輝きはあるか。首にたるみはないか。欧州名家の肖像画を見すぎたせいで、妙なことを考えた。

 

(天声人語)熊本地震1カ月

20165150500

 人文字ならぬ「パイプ椅子文字」であった。熊本地震が起きて間もなくグラウンドに現れた「SOS」のメッセージが、いまも印象に残る。上空のヘリに向かって求めた「カミ、パン、水」は、あまりにも基本的な物資だった▼その文字を作った一人、村上次郎さん(30)は「もしかしたらバッシングされるかも」とちらりと考えログイン前の続きたという。避難したその場所、熊本国府高校は熊本市でも中心部に近い。物資がないことを理解してもらえるか、甘えていると言われないかと懸念した▼でも迷ってはいられなかった。本震のあった16日朝から高校に人が集まり、400~500人になった。指定された避難所でないため、水や食料の備蓄はない。断水でトイレもままならない。市役所に電話しても「順番に対応していますから」と言われるだけだった▼一緒に椅子を並べた3年生の野田拓海(たくみ)さん(17)は「怖かった。水がないと最悪死ぬじゃないですか」と言う。身動きが取れなくなれば、都市部でも、いや都市部こそ欠乏は起きる。とっさに動き出さないと命はつなげない▼最初の地震発生からきのうで1カ月。倒壊した家、うねる道路など爪痕が残る。一方で全国からの支援があり、生活の再建も少しずつ始まっている。物資をどう届けるか、車中泊をどう乗り切るかといった課題も見えてきた。教訓を読み取りたい▼「地震はテレビの中のことだと思っていた」。熊本で、被災した人から聞いた。私たち一人一人に跳ね返ってくる言葉だ。

 

(天声人語)沖縄本土復帰から44年

20165160500

 米兵から逃げ惑う。日本兵も守ってくれると信じられない。沖縄戦

 

 

(天声人語)オリンピックの送金疑惑

20165170500

 誰かの利益のため、権限のある人たちに働きかける。そんな仕事をロビイストと呼ぶ。映画『サンキュー?スモーキング』の主人公は、たばこ産業のロビイストだ。規制を試みる政治家や役人に理屈にもならない理屈で反論する▼俳優に吸ってもらいたばこのイメージを良くしようと、関係者に働きかけることも。弁が立ち、機動力ログイン前の続きもある彼は、「得意なんです。僕にはこの仕事が向いている」と自信満々だ▼東京五輪の招致委員会が頼ったシンガポールの会社が、ロビイストとしてどれほど有能だったかは知らない。2億円余りをぽんと送金したのだから、さぞ役に立つ存在だったのだろう。ただ、会社の住所を訪ねた同僚記者によると、そこは古い集合住宅の一室。会社は法的にはすでに閉鎖している▼穏やかでないのは、フランス検察当局が不正の可能性があるとみて、お金の流れを捜査していることだ。五輪の開催地決定の投票権を持つ人物の息子と、この会社が近いという点が疑惑を招いているようだ▼招致委の理事長だった竹田恒和氏は「疑惑を持たれるような支払いではない」とする。では具体的にどう使われたのか。「お????し」の一部だったとは、よもや考えたくない▼1998年の長野冬季五輪では、招致に向けた巨額接待費用が問題になった。票を持つ人たちを招いて、宴会やホテルなどに5億円余りが費やされ、京都旅行もあった。今回の2億円はまともに使われたのだと、納得できる説明がほしい。

 

 

(天声人語)蓮實重彦さんの不機嫌

20165180500

 何だかわからないけど面白いというものが世の中にはある。おととい、三島由紀夫賞に選ばれた蓮實重彦(はすみしげひこ)さんの記者会見もそうだった。朝日新聞デジタルの詳報を読むと、「まったく喜んではおりません。はた迷惑な話だと思っています」と語っている▼三島賞は新鋭作家に贈られる賞だが、蓮實さんは80歳ログイン前の続き。評論家としては高名ながら小説は3作目で「新鋭」の扱いのようだ。この賞をこの年齢の人に与えるのは「日本の文化にとって非常に嘆かわしいことだと思っております」とまで述べた▼嫌なら辞退すればよさそうなものだが、その質問には「お答えいたしません」。めでたい席では心境を聞くのが定石だが、「『ご心境』という言葉は、私の中には存在しておりません」。サービス精神のかけらもない▼大人げない気もするが、一方で新鮮にも聞こえる。思うにそれは、最近どこでも求められる「わかりやすさ」の対極にあるからではないか。書店では平易さをうたった本が並び、職場では上司が部下にいちから教えることが求められる、そんな風潮の対極に▼文芸、映画、スポーツと幅広い蓮實さんの評論だが、難解な文が多い。読みかじって感じるのは、安易な「物語」に寄りかかることへの戒めだ。例えばスポーツは「人生の成功物語」ではないと著書で説く▼あの不機嫌な返答も、受賞がわかりやすい物語にまとめられるのを嫌ってのことだったか。そんな忖度(そんたく)も、ご本人から「違います」と言われるかもしれないが。

 

 

 

(天声人語)ル?コルビュジエの仕事

20165190500

 こんな監獄のような所で生活したら、神経がおかしくなるかも――。その集合住宅は、非難にさらされながら建てられたという。フランスの建築家ル?コルビュジエが設計した「マルセイユのユニテ?ダビタシオン」だ▼第2次大戦後の復興のため大臣から依頼されたが、当時としては斬新すぎたようだ。「缶詰住宅」「巨大なうさログイン前の続きぎ小屋」などとも言われたと、コルビュジエの著作を訳した山名善之氏が書いている▼一時は工事中止にも見舞われたが、完成後は集合住宅のお手本のような存在になった。1階を吹き抜けにするピロティや屋上庭園もある。機能とデザインの美しさを両立させている▼「近代建築の父」と言われるコルビュジエの17の作品が、ユネスコの世界文化遺産に登録される見通しになった。7カ国に及び、東京?上野の国立西洋美術館もその一つ。工場から修道院まで幅広いが、とりわけ住宅には彼の設計思想が色濃い▼「住宅は住むための機械である」と主張した。味気なく聞こえるが、多くの人に快適な住宅を提供する気持ちの表れだろう。著書では、標準化、規格化、定量化などが強調されている。それは戦後の中間層の広がりも支えた▼日本の公団住宅は、その思想を引き継いでいるようにも見える。団地の建設が進んだそのときは、高度成長期で人々の暮らしが均質化する時代でもあった。いま日本で世界で格差がいわれる。一見味気ないコルビュジエの建築のなかに温かさが宿っていたのかとも思う。

 

 

(天声人語)大学教育は誰のため

20165200500

 舞台はアメリカの大学院。入学するやいなや、給料のいい企業を目指して学生たちが競い始める。「ドルを目指して死にものぐるいで突き進むことになった」と、元銀行員が『ウォールストリート 投資銀行

 

 

(天声人語)元米兵が死体遺棄容疑で逮捕

20165210500

 沖縄県伊江島の農民が立ち退きを求められたのは、戦後10年近くたつ1954年のことだ。米軍が広い演習場をつくろうとしていた。求めに応じなければ強制的に追い出す。米軍は農民たちに迫った▼反対運動の先頭に立った阿波根昌鴻(あはごんしょうこう)さんが『米軍と農民』で軍とのやりとりを記録している。「敵の危険ログイン前の続きから沖縄を守るため」土地が必要だと米軍から言われるが、どうして自分たちが犠牲にならないといけないのか、農民たちには納得ができない。米軍は言った。「大多数を安全にするためには少数の者が犠牲になることは、気の毒だがやむをえない」▼犠牲は沖縄全体にのしかかっていった。50年代以降、本土の基地が縮小する一方で沖縄の米軍基地は拡大し、固定化する。基地があるがゆえの残虐な事件がまた起き、若い命が失われた▼亡くなった女性は、成人式を終えたばかりで、仕事を頑張っていると母親に話していたという。なぜ被害にあわなければならなかったのか。心から冥福を祈りたい▼忘れてはいけないのは、沖縄では日常的に軍関係者による犯罪が起きていることだ。在日米軍専用施設の7割以上が沖縄に集中している。そのゆがみを改めて感じる▼容疑者は元米兵で、基地がなければ沖縄に来ることはなかっただろう。日本人女性と結婚して、幼い子もいるという。地域で暮らす一人の住民だった彼がなぜ事件を起こしたのか。逮捕直前に自殺を図ったとも伝えられる。今回の事件が壊したものの大きさを思う。

 

 

(天声人語)フェンスに貼られたX

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 ×、×、×、×、×、×。沖縄県の米軍嘉手納基地で多くの×(バツ)を見た。女性遺棄事件に憤った住民たちが赤や黒のビニールテープで基地フェンスに貼り付けた抗議の印である。基地は容疑者の勤務先だった▼被害女性の住まいは基地から東へ車で10分、金武(きん)湾を見下ろす高台にある。真新しいアパートの外壁にログイン前の続き、シーサーが掲げられている。沖縄の家々に見られる魔よけの獅子だ。女性はここで交際中の男性と結婚を前提に暮らしていた▼遺体はそこから北へ車で30分、米軍キャンプ?ハンセンに近い雑木林で見つかった。花束が供えられ、警察官が遺留品を捜している▼現場は県道104号のすぐわき。米軍が1997年まで「県道越え実弾砲撃」演習をしたあたりだ。演習は本土へ移転されたが、一帯は米海兵隊の訓練の場として使われている。ここを選んだのは容疑者に土地勘があったのか。海兵隊に属した時期、通った道なのかもしれない▼きのうは名護市内の斎場で、被害女性の告別式が営まれた。「20歳の娘がこのような形になってしまい、ただただ残念でなりません。無事に生きて帰ってくる事だけを考えていたので今は何も言えません」。遺族は前日そんな談話を出した▼人生が20歳で絶たれるなど、だれに想像できよう。高校を卒業し、就職もし、成人式をへて、次はきっと結婚を夢見ていたことだろう。まさに開こうとする花が一夜で無残にも踏みにじられた。怒りが胸にこみあげ、×の列を指でなぞった。

 

 

(天声人語)伊勢エビを育てる

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 久しくお目にかかっていないが、伊勢エビには、登場するだけで会食の雰囲気を一変させる魔力がある。洋食なら座がたちまち晩餐(ばんさん)風になり、旅館の和食も急にありがたみが増す。今週伊勢志摩に集う7カ国の首脳たちも滞在中に一度は味わうことだろう▼残念ながら、人工的に育てる技術はまだ確立していない。研究ログイン前の続きの先端を行く三重県水産研究所の土橋靖史さん(51)は「孵化(ふか)させてから稚エビに育て上げるのが難事業。幼生期が300日と長く、その間に大半が死んでしまう」と話す▼孵化したばかりの幼生群を実験室で見せてもらった。透き通った体に、葉脈を思わせる細長い足が10本。水中をはかなげに漂う姿が妖精のように美しい▼水産研は1988年、世界に先駆けて、幼生を人工的に稚エビに育てることに成功した。とはいえ千匹中わずかに1匹。歴代所員はその後も飼育に神経をすり減らし、胃を患う人もいた。水槽を改良し、エサの工夫を重ねて0?1%だった生残率がついに60%を超えた▼育てた稚エビを初めて沖に放したのは昨夏。青い目印を結わえた25匹のうち1匹が漁師の網にかかった。生育は順調で所員を大喜びさせた▼古くから高級食材として珍重された。江戸では鎌倉エビ、尾張で志摩エビと呼ばれた。いつしか呼び名が定まり、伊勢の名を世界に広めた。この先、養殖技術が進んでスーパーの店頭で気軽に買える日は来ないものか。道はなお遠そうだが、磯の王者に敬意を表し、気長に待つとしよう。

 

 

(天声人語)過ちに向き合う

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 元広島市長の平岡敬(たかし)さんは新聞記者時代、被爆者たちの体験を記事にするたびに「あんたはわかっていない」と言われたという。阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄図。原爆症の苦しみ。実態を表現することがいかに困難かを、著書で述べている▼「もういっぺん原爆が落ちりゃあ、ようわかるんよ」と言われたこともログイン前の続き。そんな平岡さんにとって「核兵器の使用は国際法に違反する」と主張するのは当然だった。1995年、オランダの国際司法裁判所が核兵器の問題を扱った時に証人として呼ばれた▼国際法が禁じるどの兵器よりも「残酷で、非人道的なものだ」と違法性を訴えた。しかし日本政府が水を差す。平岡さんらの主張に「必ずしも政府の見解を表明するものではない」と付け加えた▼広島を訪れるオバマ大統領がどんな発言をするのか、注目されている。「戦争を早く終わらせ、多くの命を救った」という米国に根強い見方から、どこまで距離を置くのかと▼たしかに米国は原爆の「加害」を直視してこなかった。しかし向き合わせる努力を、日本はどこまで真剣にしてきただろう。日米安保体制にあっても、原爆投下の意味を理解させようとしたか▼米軍の加害を問うなら、旧日本軍の加害から目を背けるわけにはいかない。作家の赤坂真理さんが日本の戦後を問う小説『東京プリズン』で、主人公に語らせている。「自分たちの過ちを認めつつ、他人の罪を問うのは、エネルギーの要ることです」。それでもしなければいけないことだと。

 

 

(天声人語)特定秘密があるつもり

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 家財道具が一つもなくてみっともない。でも、買いそろえるお金がない。困った男が部屋中に紙を張って、絵の先生に頼み込んだ。たんすや鏡台、長火鉢を描いてもらい、家具があるつもりになりたいと。落語「だくだく」である▼そこへ泥棒が入る。すばらしいたんすだ、やわらかい着物がぎっしり入っているかと思いきや、ただログイン前の続きの絵。仕方がないので盗んだつもりになろうと、たんすに手をかけたつもり、ふろしきを広げたつもり……(興津要〈おきつかなめ〉編『古典落語(大尾〈たいび〉)』から)▼こちらは、さしずめ「秘密があるつもり」だったか。特定秘密保護法に基づいて秘密指定された443件のうちの3件で、情報がそもそも存在しないことが明らかになった。外務省や警察庁が入手を見込んでいたが、結局得られなかったとして指定が解除された▼ありもしない情報を前もって秘密にする。にわかには信じがたいが、可能な仕組みだそうだ。国民の「知る権利」を制限しかねない法律ゆえ慎重に吟味されていると思いきや、ずいぶんお手軽な手続きにみえる▼問題が取り上げられた衆院法務委員会では政府の担当者が、情報を本当に得ることができるかを「慎重に判断する」との姿勢を示した。「秘密の予約」は今後も続きそうだ▼冒頭の落語は、男が槍(やり)で泥棒を突いたつもり、泥棒が「血が、だくだくとでたつもり」と言って落ちがつく。特定秘密法はそんな生やさしいものではなく、秘密を漏らした者に10年以下の懲役が用意されている。

 

(天声人語)きょうから伊勢志摩サミット

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 想像してみよう。伊勢志摩サミット出席のために日本にやってきたのが、オバマ大統領ではなくトランプ氏だったら。欧州の首脳たちに、難民受け入れなんかやめてしまえ、壁を築けばいいと説教を始めるだろうか▼日本企業に乗り込み、米国人の職を奪っていると非難するだろうか。安倍首相に、何なら核武装すればいいとささやログイン前の続きくだろうか。米国内で人気の言動が、もしもそのまま国際社会に持ち込まれたらと考えると、ぞっとする▼G7サミットと呼ばれる主要7カ国首脳会議が今日開幕する。一時は新興国も含めたG20に押されて影が薄かったが、最近見直されている。民主主義や人権、自由な経済といった価値を共有しており、話し合いを持つ意味が大きいと言われる▼問題は、その価値が各国の足元でぐらつき始めたことだ。欧州では移民を排斥する動きが広がる。トランプ現象は、貿易相手の外国にも矛先が向かう。余裕を失った人たちに、分かりやすい敵を示す政治が入り込む▼トランプ氏の言う「アメリカ?ファースト(米国第一)」は、支持者の心をくすぐるのかもしれない。自国第一主義は、欧州でも目立ってきた。しかし、内向きになれば嵐がやりすごせるほど、グローバル化の現実は甘くない▼例えばタックスヘイブンでの税逃れは、国という存在をあざ笑うかのようだ。そしてこれほど、対策に国際協調が求められるものはない。サミット(頂上)という偉そうな名前の会議にも、まだ存在価値はあるのだ。

 

(天声人語)原爆と原発

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 1951年、京都大学の学生たちが各地で「原爆展」を開いた。連合国軍総司令部が、原爆の情報を厳しく統制していた時代。警察の妨害を受けながらも被害の全体像を多くの人に初めて示したと、小畑哲雄著『占領下の「原爆展」』にある▼被爆し、皮膚が垂れ下がった人たちなどを丸木位里(いり)と妻俊(とし)が描いた「原ログイン前の続き爆の図」や、ケロイドの写真、放射線被害の実態などが、展示された。最後のパネルには、こうあった。「新しいプロメテの火を、原爆から解放して平和と人類の幸福のための炬火(きょか)とせよ!」▼ギリシャ神話のプロメテウスから与えられた火のように、原子力を人類に役立てたいという願いである。戦後の日本は「核の平和利用」の名のもと原発建設へと進んだ。被爆国としての経験は歯止めにならなかったばかりか、推進の一端も担った。そして3?11を迎えた▼オバマ米大統領がきょう、広島を訪問する。核兵器がいかに非人道的か、どうすれば核の廃絶に向かえるか、考える日にできれば。しかし、福島の原発事故を経験した日本は、もう一つの核を避けて通れない▼〈どうなるか判(わか)らぬ原子の手当(てあて)にも薬はあらじ心あせるも〉石井政男。原爆にさらされた人を手当てできない悔しさがにじむ歌だろう。原発事故の処理が思うようにいかない日本の姿が、重ならないか。廃炉は難航し、わが家にまだ帰れない多くの人がいる▼広島への訪問で原発が語られることはおそらくないだろう。だからこそ語りたい、考えたい。

 

 

(天声人語)オバマ大統領が広島訪問

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 花が捧げられ、黙祷(もくとう)がなされた原爆死没者慰霊碑の場所は、おすし屋さんのちょうど前あたりだった。近くには、八百屋さんや時計屋さん、郵便局もあった。地元広島の中国新聞社が復元した町並みの地図を重ねてみる。市井の人たちの暮らしが、確かにあった▼それがすべて破壊されたのが、1945年8月6日朝だログイン前の続きった。原爆の悲劇を繰り返さない、そんな願いが込められた平和記念公園をオバマ米大統領が訪れた▼現職大統領として初の訪問ではあるが、どこまで意味があるのか正直迷うところもある。「核なき世界」でノーベル平和賞が決まった6年半前、「彼はまだ、何もしていないじゃないか」との声があった。核はいまも世界にあり、彼の任期は残り8カ月である▼それでも米国が世界が、核を見つめ直す道のりの大きな一歩になると信じたい。かつて原爆投下にかかわり、罪を悔やんだ元パイロットが書いている。「広島の廃墟(はいきょ)の下に眠っている人びとが泣きながら、平和を求めてさけんでいる声がきこえてきます」(『ヒロシマわが罪と罰』)▼被爆者たちがぜひにと求めた平和記念資料館にも、オバマ氏は訪れた。焼けただれた人たちの姿があり、原爆症に倒れた少女の物語がある。滞在時間は短くとも、学ぼうとする人には訴えかけるものがあるはずだ▼オバマ氏は演説で「記憶」について語った。私たちが慢心と戦うための力になると。語り継ぎ、未来への糧にする。容易ではないが、けっして不可能ではない。

 

 

(天声人語)小山評定を世界に

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 経験上、週明け早々の定例会議の多くは、長くて眠くて成果に乏しい。長広舌(ちょうこうぜつ)をふるう上司の姿だけ頭に残り、肝心の中身は忘れたりする▼歴史をふりかえると、天下の流れを決めて語り継がれる会議もある。1600(慶長5)年7月の小山評定(おやまひょうじょう)は好例だろう。いまの栃木県小山市で徳ログイン前の続き川家康が開いた。北に進んで上杉景勝を討つか、あるいは西へ転じて石田三成を倒すべきか。軍議の結果、諸将は東軍に結束して三成と戦う道を選ぶ。2カ月後、関ケ原の合戦を制する▼地元の小山市は史話のPRに力を注ぐ。「もし小山評定がなかったら、東軍はあれほど結束しなかった。小山は家康の運を開いた」と解説し、「開運のまち」をうたう。地元ではおおむね好評だ▼今春から市は庁内の会議を「評定」と呼ぶようになった。部長会議は「部長評定」に、空き家の利活用に関するプロジェクト会議は「空き家の利活用評定」と改められた▼「呼称が変わっただけなのに、だらだらした会議が減りました。会議に臨む職員の気構えが目に見えて変わりました」。担当の黒川澄子?市職員研修所長(51)は変化を喜ぶ▼評定といえば、小山よりも小田原の方が知名度が高い。長いばかりで結論の出ない会議の代名詞である。日系企業で働いた外国人に聞くと、残念ながら、日本には会議が多くてむやみに長いとの評がいまもある。できれば小山市役所の皆さんには、会議を厳選し、てきぱきと議事を進める技を究めて、世界に発信してほしい。

 

 

(天声人語)期限切れ商品を持ち込む

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 とうに賞味期限の過ぎた食品を冷蔵庫の奥から見つけるのは何度経験しても情けない。翌日のゴミ収集日に捨てようと庫内に戻して失念し、半月後に再会したこともある▼賞味期限が何年も前に切れた食品がスーパーの売り場に持ち込まれる――。奇怪な事件が愛知県で相次いだ。期限が8年前に切れた小麦粉が3店の棚で見つかっログイン前の続きた。うち1店には3年前が期限のマーガリンも。容疑者は捕まっておらず、狙いは不明だ▼気の毒なのは知らぬまま小麦粉を買って帰った客である。「心あたりのお客様はお近くの従業員までお知らせ下さい」。店長名の丁重なおわびの貼り紙を店で見かけた▼3店は車で10分以内に行き来できる近さ。店を結ぶ三角形が容疑者の生活圏なのだろう。「万引きするんじゃなくて逆に置いていくなんて」と住民も驚く▼頭に一瞬浮かんだのは三十数年前のグリコ?森永事件。かい人21面相を名乗る何者かが毒入りの菓子をスーパーに置いて食品企業を次々に脅し、警察をもてあそんだ。だが今回の事件は周到さを少しも感じさせない。衝動的な犯行だろう。小麦粉の製造元に恨みがあるのか。ひょっとすると台所で古い食材を見つけ、自己嫌悪に陥ったすえの八つ当たりか▼大量の食品が安易に捨てられる時代とはいえ、今回の行為は深刻な犯罪である。ものによっては日ごろ賞味期限を見ずに買う人もいるだろう。だがこれからは、種類を問わず日付と年を念入りに確かめなければいけないのかもしれない。

 

禁止用于商业用途

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