国や民族によらず、増税が喜ばれることはまずない。こんな笑話がある。ある国の果物店で筋骨隆々の若者がレモンをぎゅっと握り、見事にジュースをしぼって見せた。若者はジムで体を鍛えていると自慢した▼そこへ痩せたご老体が現れて、若者がつぶしたレモンをチョイと握った。すると残った汁が滴(したた)り、最後の一滴までしぼり切ってしまった。驚く面々に老人いわく。「なに、むかし税の役人だったので」。万国共通で笑いを取れるネタらしい▼むろん税吏が悪者ではない。税制は政治が決める。きのうの川柳欄が、人気ドラマをもじって野田首相を「課税夫(かぜいふ)のノダ」と一刺(ひとさ)ししていた。その乾坤一擲(けんこんいってき)の消費増税は、ここにきて、不人気がいっそう高じている▼このままでは国が危ないと誰もが考えている。なのに世論調査では賛成より反対が多い。つまり土壌はあるのに支持が育たない。政治への信頼が薄いためだろう。新たな負担は真実「安心」の保証になるのだろうか、と▼税率を10%にしても足りないと多くが感じている。将来さらに税負担が増えて、レモンのようにしぼられる。その可能性をリーダーの胸三寸に隠されては信頼からは遠い▼おとといに続いて元英首相チャーチルに登場願えば、第2次大戦の苦闘の時にこう演説している。「英国民は事態がいかに悪いかを知らされることの好きな唯一の国民である」。むろんユーモアだが、国民に事実を説明する政治家の勇気を垣間見る。ない物ねだりと思いたくない。