首页 资料下载 天声人语 20120107 腸に春滴るや粥の味

20120107 腸に春滴るや粥の味

来源:朝日新闻 作者:日语港 时间:2012-03-05 阅读:4267

 43歳の晩夏だった。胃潰瘍(かいよう)を患う夏目漱石は、療養先の伊豆修善寺でひどい吐血に見舞われる。生死の境をさまよった後の一句が生々しい。〈腸(はらわた)に春滴(したた)るや粥(かゆ)の味〉。大病のつらさを押しのけて、生きる喜びが鮮烈だ▼絶食の末に許された粥は、歓喜のうちにのどを抜け、食道を震わせて下り、腸(はらわた)に春を届けた。五体に染みたことだろう。現に、病床の漱石は食べることばかり夢想していたらしい。「夜は朝食を思い、朝は昼飯を思い、昼は夕飯を思う」と、当時の日記にある▼病中病後のシンボルだった「おかゆ」も、いまや堂々の健康食だ。なにせ消化がよくて減量にも向く。レシピ本がいくつも出回り、元気な人はさらなる充実を求めて食す▼きょう、無病息災を願いつつ味わう七草粥は、年末年始に酷使した胃腸に優しい。過食を省みる一服となる。刻み込む春の七草のうち、台所のなじみはスズナにスズシロ、すなわち蕪(かぶ)と大根あたり。家なら一草で構わない▼洋食や中華が油絵なら、和食は水彩、粥は水墨画となろうか。飯粒はふやけ、具は質素、総じて薄味ゆえに、控えめな美味を受け止めるには「備え」が要る。禅寺で供される朝粥の旨(うま)さは、ゆとりの中の欠乏感、平らかな心と無縁ではない▼文豪に生を思い出させたのは変哲もない白粥だろうが、死を免れた安堵(あんど)と空腹が何よりの具だった。病の心配がない向きは、一食抜いて七草粥を試すのもいい。元気と平穏がほしい年、淡いが深い滋味で、この寒をしのぎたい。

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