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31 依頼

来源:庭三郎 作者:日语港 时间:2010-03-24 阅读:3720

31 依頼

31.1  V-てください      
31.2  V-ないでください  
31.3 V-て/ないで くれ
31.4 V-させてください
31.5 V-て/ないで ほしい


31.1  V-てください  [依頼・勧め・指示][イントネーション][お-V-ください]
     [V-てくださいませんか]
31.2  V-ないでください
31.3 V-て/ないで くれ  [その他の形]
31.4 V-させてください
31.5 V-て/ないで ほしい


 日常の生活で非常によく使われ、日本語教育でも中心的な文型の一つになっ
ているものを「ムード」の最初にとりあげましょう。「依頼」を表すとされる
「V-てください」です。「依頼」以外の意味を表す場合もまとめて取り上げ
ます。


31.1 V-てください       
[依頼・勧め・指示]
  「V-てください」は、やりもらいの動詞「くださる」の命令形を動詞の
テ形に接続させた形で、一般に「依頼」の意味を表わす表現と言われています。
次の例はそれに当てはまります。

   a すみません、ちょっと手伝ってください。
     あのう、お金を少し貸してください。
     明日、一緒に行って下さいませんか。

 しかし、上の例をみても分かるように、「V-てください」だけだと、あま
り丁寧な感じがしません。三番目の例のように、「V-てくださいませんか」
とするか、あるいは文法的には複雑になってしまいますが、「V-ていただけ
ませんか」とか、「V-ていただきたいんですが」などのほうがより丁寧な言
い方になります。

   a’すみません、ちょっと手伝っていただけませんか。
     あのう、お金を少し貸していただきたいんですが。

 「V-てください」そのものは、むしろ依頼よりも他の表現に使われること
が多いようです。他の表現とは次のようなものです。 

   b どうぞ上がってください。
     どうぞおかけください。
     好きなものをおとりください。

   c テープの後で繰り返してください。
     この書類に名前と住所を書いてください。  
     このへやでしばらくお待ちください。

 これらは、「V-てください」を教える場合にごく自然に出てくる例だと思
いますが、「依頼」という言葉が意味するものとはちょっと違う内容です。

 まず、bは「勧め」を表わし、「どうぞ」を付けることが多いものです。 
 cの例は「指示・命令」を表わしていて、内容的には「V-なさい」でも言
えるものです。それを「丁寧に」言っているだけです。

 これらは、「依頼」や「お願い」をしているわけではありません。
話し手のために聞き手が何かをするように言うことを「依頼」というわけで
すが、これらの例では、そうではありません。
 bの「(いすに)かける」のは、そう勧める人、つまり話し手のためにするわ
けではありません。
 cの場合は、むしろ聞き手のためになるようなことです。「テープの後で繰
り返す」のは、例えば先生のためではなく、学生にとって大切なことです。
 それに、bの場合は断ってもいいのですが、cでは従うことが要求されてい
ます。ですから「依頼」ではなく、「指示」とします。

 依頼の「V-てくださいませんか」の形を勧めや指示の場合に使うと、変な
感じがします。「V-ていただけませんか/V-ていただきたいんですが」な
ども同様です。次の例を見て下さい。

   d ?どうぞ召し上がって下さいませんか。(客に食事を勧めて)
     ?そこに座っていただけませんか。  (社員募集の面接で)
     ?改札を出たら、そのまままっすぐ行っていだだきたいんですが。
      (電話で道順を説明)

 初めの二つの例は、勧めや指示に従ってくれない場合に、さらに強く繰り返
しているという感じになります。「丁寧」なわけではありません。ですから、
「V-てください」に「~ませんか」を付けると丁寧になる、という説明の仕
方はしないほうがいいでしょう。

 もっとも、社員募集の面接で、

     えー、そうですねえ、そこに座っていただけませんか。

と言うこともあるかもしれませんが、ちょっと「慇懃無礼」で、かえって軽く
扱っている感じがします。

 反対に「どうぞ」は勧め以外ではあまりしっくり来ません。

    ?すみませんが、どうぞ窓を開けて下さい。(依頼)
?どうぞその本を貸してください。
    ?どうぞこの書類に名前を書いて下さい。(指示)

 慣用的な表現で、

     どうぞよろしくお願いします。

などは確かに「依頼」ですが、ふつうに何か頼む時は「どうぞ」をつけないよ
うです。       

 依頼の場合は「どうぞ」のかわりに「どうか」を付けることもできますが、
場合によっては依頼というより「哀願」になってしまいそうです。

     どうかお金を貸してくださいませんか。
     どうか窓を開けて下さい。(息が詰まって死にそうです?)

 結局、依頼の時は、副詞を付けるよりも「すみませんが」とか「あのう」と
か言うと、ちょうどいいのです。

あのう、すみませんが、窓を開けていただけませんか。

 依頼というのは、文字どおり「頼んで」いるわけで、相手がその通りしてく
れるかどうかはわかりません。相手の気持ちしだいです。
 それに対して、勧めや指示は、その言葉の丁寧さとは別に、相手がそう
することをかなり強く「要求」しています。ですから「~ください」という「命
令形」を使っているのです。相手が自分の言葉に従うことを(丁寧に)求め
ていると言ったら、言いすぎでしょうか。 

 依頼はあくまでも「お願い」ですから、相手が断わる余地を残して「~ませ
んか」とか、「~たいんですが」などといって語尾をやわらげたほうがいいの
です。

 「V-てください」の持つ意味合いは、他にも「はげまし・非難・期待」な
ど、場面によっていくつか考えることができますが、基本的なものは上に述べ
た「依頼・勧め・指示」の三つと言ってよいでしょう。

     決勝戦はがんばってくださいね。    (はげまし)
     もうちょっとまじめにやってください! (非難)
     どうか目を覚まして下さい。        (期待?)

[終助詞とイントネーション]
 「V-て(ください)」には終助詞がつけられます。「ね」と「よ」がふつ
うです。「な」も「よ」に近い意味合いで使われます。

 終助詞が付く場合、文末のイントネーションが上昇調か下降調かで意味合い
にいろいろ違いがあります。上昇調を「↑」、下降調を「↓」で示します。右
側の補足説明は一例です。文脈によってさまざまな場合があるでしょう。 

     来て下さいね。↑ [再度のお願い]  
     来て下さいよ。↑ [頼んだことを確認]  
     来て下さいよ。↓ [今、強く頼んでいる]
     ちょっと、手伝ってくださいよ。↓  [このことばで頼んでいる]
    ×ちょっと、手伝ってくださいよ。↑  [今頼んでいるので不可]
     ちゃんと手伝ってくださいよ。 ↑  [確認]
     ちゃんと手伝ってくださいよお。↓  [今「ちゃんとやって」いな
      いのを非難して。音調は「ちゃんとて」を下げ、「つだって」を
      高くして、「くださいよお」を下げるような感じで]

 上昇調の「よ」は、「ね」と同じような確認の意味合いがあります。「必ず」
をつけたくなるような感じがあります。「~てください」の依頼の意味を強め
ているのですが、将来のこと、という感じです。それに対して下降調の「よ」
は、今、強く頼んでいる、という感じです。

 この違いは、今現在の依頼であることを示す呼びかけの「ちょっと」(「少
し」の意味ではなく)をつけるとはっきりします。「ちゃんと」をつけると、
上昇調のほうは、「手伝うのを忘れないでくださいね」という感じですが、下
降調のほうは、「もっとちゃんとやって!」という非難を感じます。

 イントネーションと意味の関係はかなり複雑で、微妙です。もっと研究する
必要があります。上の例の説明はほんの一例です。

[お-V-ください]
 「V-てください」のより丁寧な形というと、「お-V(中立形)-ください」
になりますが、これも依頼の場合にはあまり使われないようです。

    ?すみませんが、この漢字の書き順をお教えください。(留学生が先
     生に)

やはり、「教えていただけませんか」ぐらいがいいでしょう。

     恐れ入りますが、あの箱をお取り下さい。

も、「あの箱を取ること」は話し手のためでなく、聞き手のためになることで、
つまり「勧め」の意味になるでしょう。

 ただし、かなり硬い話しことばの場合には「依頼」として使えます。

     どうか真実を我々にお話し下さい。
     我らをお導き下さい。

 勧めの場合と指示の場合にはふつうに使われます。

     どうぞおかけ下さい。
     ご自由にお読み下さい。
     代金はあちらのカウンターでお支払い下さい。
     もう結構です。お引き取り下さい。

 最後の例は、「帰れ!」と言いたい時の慇懃な表現として使えます。

 敬語の尊敬表現「お-V-になる」(→「29. 敬語」)にも「-ください」を
付けることができます。やはり依頼にはなりにくいようです。

     どうぞ窓をお開けになって下さい。

は、「開けたかったら、どうぞ」か、あるいは指示の意味となるでしょう。
頼んでいるわけではないようです。
 が、動詞によっては依頼になります。

     ぜひうちにお泊まりになって下さい。 

 敬語動詞(→「29. 敬語」)は依頼にもなるようです。

        こちらにおいでください。(指示)
     ぜひ おいで下さい/いらして下さい。(依頼)
         どうぞ召し上がって下さい。(指示・依頼)

 このへんの、敬語と依頼の関係は、かなりむずかしいようです。

[V-てくださいませんか]
 この形は、「V-てくださいます」の否定疑問の形です。「ください」とい
うのは「くださる」の命令形ですから、「走れ」に対する「走りませんか」の
関係にあるわけです。それが「依頼」の「V-てください」の「丁寧な表現」
になるというのは、考え出すとよくわからない関係です。
 それはともかく、この形は「依頼」の意味合いの場合に限られ、「勧め」や
「指示」の場合には使われないことが重要な点です。

 この肯定疑問の形も使われますが、その他いろいろな形は後でまとめてとり
あげます。


31.2 V-ないでください    
 「V-てください」に対応する否定の形です。動詞のナイ形を使います。意
味は「依頼」と「指示」で、その内容が否定になっています。「依頼」の場合
は「ませんか」をつけて丁寧にすることもあります。「勧め」の否定というの
は考えにくいでしょう。

     すみませんが、たばこは吸わないで下さい。
     大きな声で話さないで下さい。
     私の席に座らないで下さいませんか。

 文脈によっては、「非難」の意味が出てきます。「ませんか」をつけて「丁
寧」な形にした方が非難の色合いが強く出るようです。上の最後の例です。

 否定の「指示」は実際には「禁止」の場合の柔らかな言い方として使われる
ことも多くなります。

     辞書は使わないで下さい。
     この部屋には入らないで下さいね。  
     こんなことは二度としないで下さい。
     吸い殻をそんなところへ捨てないでくださいよ/な。↓(非難)

 「V-てください」に使われる動詞は、基本的には意志動詞ですが、否定に
なると無意志動詞も使われます。「そうならないように(努力)して下さい」
ということでしょう。

     遅刻しないで下さいね。(×遅刻して下さい)
     財布を落とさないで下さいよ。
     お金を取られないでくださいね。

 終助詞の「ね」「よ」「な」は、「V-てください」と同様につけることが
できます。上の「吸い殻」の例では非難の意味合いがあります。

 「お-V-ください」の否定の形は特にありません。尊敬表現の「お-V-
になる」と同じ扱いになります。敬語動詞も同じです。

     おはなしになって下さい            おはなし下さい
     おはなしにならないで下さい      ×おはなさないで下さい
     何もおっしゃらないで下さい


31.3 V-て/ないで(くれ)     
  「V-てください」の男言葉として「V-てくれ(ないか)」があり、その
否定表現が「V-ないでくれ(ないか)」です。家族・友人に対する男性の話
しことばとしてどちらもよく使われ、「よ」を付けた形でも使われます。「ね」
はつけられません。その点では「命令」に近いと言えます。(→「34.命令」)

     ちょっと、これ見てくれ(よ)。  (依頼)
     おーい、だれか来てくれ(ないか)。
     まあ、そこにすわってくれ。    (勧め) 
     いいか、静かに聞いてくれ(よ)。 (指示)
     そんなこと、言わないでくれ(よ)。
     どこへも行かないでくれ(ないか)。

 では、女性はどういうかと言うと、「くれ」を言わないで、「V-て(ない
で)」と省略した形を使います。この形は男性も使います。文末が上昇調にな
ります。「ね」「よ」をつけることもできます。

     明日、必ず来てね。↑(依頼)
     はい、息を吸って。↑(指示)
     これ、みんなに配って。↑
     こっちも手伝ってよ。
     このおもちゃ、買ってよ!
     がんばってね!  (励まし) 
     ね、見て見て!
     まあ、そう言わないで。もうちょっとだから。
     泣かないで 泣かないで 私の恋心 あの人は お前に似合わない
     振り向かないで お願いだから

 「V-て」だけの依頼の場合、書く時には「!」を付けることが多いです。
そうしないと、「~して、~」の形の後半を省略した形の場合と間違えやすく
なります。

 もう一つ「V-て/ないで ちょうだい」という形も、話しことばではよく
使われます。主に女性と子どもの言い方ですが、男性も使います。

     ちょっと、これ、持っていてちょうだい(ね)。
     そんなに強く押さないでちょうだい(よ)。(非難)
     あれ、買ってちょうだい。
     何も言わないでちょうだい 黙ってただ踊りましょ 

[その他の形]
 依頼表現の基本的な形として、

     してください
     してくださいませんか
     してくれ
     してくれないか
     して
     してちょうだい

と、それぞれの否定の「しないで-」の形をとりあげてきましたが、ほかにも
いろいろな変化形があります。

(してください)     (してくれ)
   a (してくださいませんか)  してくれませんか   否定疑問  
   b  してくださいません?      してくれません?   カの省略  
c  してくださいますか        してくれますか     肯定疑問  
   d  してくださいます?        してくれます?      カの省略 
   e ×してくださらないか   (してくれないか)   普通体語尾
   f  してくださらない?        してくれない?      カの省略 
   g ×してくださるか      してくれるか        肯定疑問 
   h  してくださる?      しれくれる?         カの省略

 これらの中で、aの「してくれませんか」はよく使われます。「してくださ
いませんか」では丁寧すぎるような相手、立場上目下の、しかし「部下」では
ないような関係の相手に対して依頼するときに、「してください」と直接的に
は言うのを避けて、あるいは店で修理を頼むときなどに、使われます。

     えーと、これを配ってくれませんか。
     ここを直してくれませんか。

 「くださる」のほうのいくつかは、独特です。

     これ、あちらに届けてくださいません?       
     もう一度、話してくださいます?
     あのお金、もうちょっと待ってくださらない?
電話に出てくださる?

 これらは、私の語感では女性的な感じがしますが、いかがでしょうか。特に、
後の二つ、普通体のものは男性が使うと変でしょう。

 eとfのところで、「くださる」の普通体語尾に「か」をつけると不自然な
のは、一般的に普通体に「か」をつけると乱暴な感じがすることによります。
「くださる」が敬語なので、それと合わないわけです。(→「42.疑問文」)

 これらの形のそれぞれに「V-ないで」の形があり、さらには「V-ていた
だけませんか」などの形の変化形があるわけですから、大変な数になります。
それらを、日本語話者は時と場合と相手に応じて使い分けているのです。

     ちょっと、こっちを見ないでくれる/くれない?
     このことは、あの子には言わないでくれるかい?
     この本、ちょっと貸していただけません?
     大きな声で話さないでいただけませんか。
     これ、うちへ届けていただける?
     このしごと、引き受けてもらえませんか?

 さらには、「-だろうか」をつけて語調を和らげた表現もあります。

     いっしょに行ってくれないだろうか。
     もう一度会っていただけないでしょうか。

これらも、質問の表現と言うより、依頼の表現でしょう。まったく、人にもの
を頼むというのはやっかいなことです。


31.4 V-させてください    
  「V-てください」と使役表現の複合した形で、

     V-させてください/させていただけませんか/させていただきた
       いんですが

などの形があります。あらたまった場面で使われる表現です。自分が「~した
い」ということをへりくだった形で、しかしかなり強い主張として述べるとき
に使われます。(→「25.7.3 V-させてあげる」)

     私にやらせてください。
     明日休ませてください。
     少し考えさせていただけませんか。
     会社をやめさせていただきたいんですが。


31.5 V-て/ないで ほしい
 「V-てほしい(です)」は「V-たい」と同じ「希望」の表現ですが、「(あ
なたに)V-てほしいんですが・・・」の形で依頼表現にもなります。

     すみません。ちょっとこちらに来てほしいんですが。
     これ、調べてほしいんだけど。
     君にも加わってほしいんだけど、どうかなあ。

 相手に対する自分の希望をそのまま言うわけですから、「~んですが」とし
ても「丁寧」な感じはしません。かなり一方的な言い方です。柔らかく言うに
は、「~が・・・」の部分に時間をかけます。「~が。」と強く切ると、やってく
れない相手に対する「非難」の感じにもなります。

     もっとちゃんとやってほしいんだけど。

 「希望」は将来のことについて言うのが基本なので、現に行われることにつ
いて言うと、「そうなっていない」ことに対する非難の意味合いが生まれます。

 「V-てほしい」と同じ意味を「やりもらい動詞」の補助動詞を使って表す
こともできます。

     これ、取り替えてもらいたいんですが。
明日も来てもらいたいんだけど。

「私があなたにV-してもらう」ことを「私は希望する」ということです。こ
れも「依頼」と言うよりはむしろ「要求」という感じの強い表現です。

 これの敬語表現が「V-てください」のところでちょっと出した「V-てい
ただきたいんですが」です。

     ちょっとこちらにいらしていただきたいんですが。

こうすると、さすがにいくらか丁寧な感じがしますが、内容的にはけっこう強
い要求の場合もあります。特に、立場上そう要求することができるような関係
の時に、表現を柔らかくするために使われます。

     ここをもう一度書き直していただきたいんですが。

参考文献
柏崎雅世1991「「(て)下さい」について-行動要求表現における機能分析」
『日本語学科年報』13東京外国語大学
佐藤里美1992「依頼文-してくれ、してください-」『ことばの科学5』むぎ書房
前田広幸1990「「~て下さい」と「お~下さい」」『日本語学』5月号明治書院
由井紀久子1995「シテクダサイとシテモライタイとシテホシイ」宮島他編『類
義表現の文法 上』くろしお出版
吉川武時1978「「していて下さい」の意味-「待って下さい」と「待っていて
下さい」の使い分け」『日本語学校論集』6東京外国語大学

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