7.格助詞のまとめ
7.1 が
7.2 を
7.3 に
7.4 へ
7.5 で
7.6 と
7.7 から
7.8 まで
7.9 より
7.10 格助詞の重なり
これまでは、述語の方から考えて、その述語がとる補語についてみてきましたが、
ここで、逆にそれぞれの格助詞の用法をかんたんにまとめておきましょう。後で複合
述語とともに使われる場合の用法も参考までにあげておきます。
7.1 が
最も基本的な格助詞です。動詞文・形容詞文・名詞文のすべてに使われます。
①主体 存在・状態・動き(動作)・変化などの主体
人がいる 人が転ぶ 雨が降る 色が変わる
空が赤い 桜がきれいだ
②対象(一部の述語) 「は・が文」で動詞は状態性
英語が分かる/要る スキーができる/好きだ/上手だ
漢字が読める(複合述語 →「25.3 可能」)
スキーがしたい(複合述語 →「37.希望」)
③側面
彼女は色が白い。
このひもはちょっと長さが短い。
名詞文に使われる「が」をどう考えるかは難問です。(→ 6.1.1)
7.2 を
動詞文に特徴的な格助詞です。形容詞文・名詞文には原則として使われません。
①対象 物理的・抽象的な働きかけの対象(→ 6.2.1))
本を読む 嘘を言う 物を壊す 穴を掘る
人を愛する 足の骨を折る 風邪を引く
②移動の場所 移動の自動詞
道を渡る 歩道を歩く
③出発点 移動の自動詞
国を離れる 部屋を出る 大学を出る
④使役の対象 複合述語の対象 (→「25.2 使役」)
子供をあそばせる 人を笑わせる 腕をぶらぶらさせる
例外的に形容詞文や名詞文で使われるのは、次のような場合です。
私は彼女のような有能な人を秘書に欲しい。
今、ワープロソフトをインストール中です。(→ 2.9)
7.3 に
用法の広い格助詞です。基本的な意味は何らかの意味での「点」を示すことでしょう。
形容詞文にも多く使われます。「受身」や「使役」という「ボイス」にも使われます。
①目的地・到着点 物理的・抽象的移動 「へ」に近い
家に帰る 部屋に戻る いすに座る
家に呼ぶ/招待する 棚に置く/並べる 部屋に運ぶ
上に伸びる 天井に届く 駅前に止める 家に泊める
②存在の場所 物理的・抽象的
家にいる 結論に問題がある
この病気は子どもに多い
③対象 「到着点」と同じ方向性がある
人にかみつく 人に頼る 仕事に慣れる
人に親切だ 仕事に熱中する 地理に詳しい
④相手 対象の「Nを」がある場合 「到着点」と同じ方向性がある
人にものをあげる/文句を言う/手紙を書く
⑤恩人 「Nから」とも言える
人にもらう/借りる/教わる
⑥時点 時間の一点(長くても)
2時に会う 縄文時代に発達した
⑦原因 生理的・心理的な原因が多い
物音に驚く 酒に酔う 雨に濡れる
⑧基準
親に似ている 服に合う 仕事に要る/必要だ
私には難しい この仕事に適当だ 駅に近い
⑨変化の結果
赤に変わる 病気になる
円をドルに替える 服を背広に着替える
⑩使役の対象 (→「25.2 使役」)
子供に行かせる 国に補償金を払わせる
⑪受身の「元の文」の動作の主体(→「25.1 受身」)
親に叱られる 雨に降られる スリに財布をすられる
7.4 へ
方向を示します。用法の狭い格助詞です。到着点の「に」と重なります。
方向 行く・来る・帰る 戻す・置く
7.5 で
用法の広い格助詞で、様々な副次補語を形作ります。
①動作の場所
学校で勉強する 道で遊ぶ ベッドで寝る
②道具・手段
ペンで書く 車で通う 日本語で話す
③範囲・範囲の終わり
世界で最初だ この中で選ぶ
3時間でできる 3時で締め切る
④基準
規則で決める 日本円で千円
⑤原因・根拠
風邪で休む 声でわかる
⑥様子
浮かない顔で はだしで
⑦主体
私のほうでやっておきます
⑧材料
木でいすを作る
7.6 と
①相互関係(→ 2.6、3.6.3、6.8)
彼と会う 話す 約束する 結婚する 等しい 同じだ
②仲間
彼と行く 子供と風呂に入る
「相互関係」の方は名詞文・形容詞文・動詞文のすべてに使われます。「仲間」は
動詞文だけです。
並列助詞の「と」との違いに注意が必要です。(→「5.名詞・名詞句」)
7.7 から
基本的には何かが発するところです。
①出発点・開始点
外国から来る 部屋から出る 最初からやり直す
そこから動かす 棚から戻す
1時から始める
②相手
先輩から買う 店員から受け取る
③恩人 「に」でも言える
親からもらう 知人から借りる
④原料
牛乳からチーズを作る
⑤根拠
このことからわかる/明らかだ
⑥経由点
窓から庭に出る
⑦主体
妹から送ってきた
⑧受身の「元の文」の動作の主体
先生から誉められた(→「25.1 受身」)
7.8 まで
「から」との組み合わせで、ある範囲の終わりを示します。場所と時の場合は
「終点・終了点」と呼んでおきました。
範囲
所 東京から京都まで
時 2時から3時まで 朝から晩まで(一日中)
その他 大金持ちから貧乏人まで(みんな)
素粒子から銀河系まで (すべてのもの)
副助詞の「まで」は別です。(→「18.副助詞」)
7.9 より
よく使われるのは比較構文です。その場合、他の格助詞とは性質が違うところが
あります。くわしくは「17.比較構文」で述べます。
①比較の基準
漢字はかなより難しい
②始点(書き言葉)
これより始める 「文法辞典」より
7.10 格助詞の重なり
格助詞は基本的には相互に重ならないのですが、何ごとにも例外はあります。
範囲の「NからNまで」は「が/を/と」の前に来ることができます。
ここからが難しいのです。
5ページから8ページまでをコピ-しました。
この生地の長さは、テーブルの端から端までとちょうど合います。
ただし、次の「と」は並列助詞の「と」です。
AからBまでと、CからDまでは同じ長さです。
また、次の「と」は、連用修飾語を作るための「と」(「ゆっくりと歩く」の「と」と同じ)でしょう。
西へ西へと歩いていった。
格助詞の「と」は「が」の前に使われることがあります。何らかの動詞が暗示されます。
決勝戦は彼とがいちばん多かった。(彼と戦う/試合をする)
比較の「より」は、「が/を」以外の格助詞に接続することがあります。
(→「17.比較構文」)
家からより学校からのほうが近いです。
なお、「の」はふつう格助詞とされますが、この本では名詞と共に補語となるものを
格助詞としたので、ここでは扱いません。分類上、名前を付けるとすれば「連体助詞」
でしょうか。「が」「を」「に」以外の格助詞と自由に接続できる点でも他の格助詞と
違っています。
Nへの/での/からの/までの/との