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5.名詞・名詞句

来源:庭三郎 作者:日语港 时间:2010-02-14 阅读:5176

5.名詞・名詞句
 5.1 名詞の分類
 5.2 NのN
 5.3 位置を示すNのN
 5.4 時を示すNのN
 5.5 割合を示す名詞
 5.6 N+接辞
 5.7 Nのこと
 5.8 NというN
 5.9 並列助詞
 5.10 名詞をつなぐ接続詞
 5.11 同格


 5.1 名詞の分類
5.1.1 代名詞   5.1.2 数詞   5.1.3 形式名詞   5.1.4 固有名詞   5.1.5 普通名詞   5.1.6 動作性の名詞  
 5.3 位置を示すNのN
5.3.1 Nの[所]   5.3.2 Nのトコロ
 5.4 時を示すNのN
5.4.1 Nの[時]   5.4.2 前に来る名詞の制限   5.4.3 述語の制限   5.4.4 場所と時
 5.6 N+接辞
5.6.1 N中(ちゅう)だ/の   5.6.2 N中(ちゅう/じゅう)   5.6.3 Nごと   5.6.4 Nおき   5.6.5 Nぶり   5.6.6 その他  [以前・以後]  [以来・以降]  [前・後]


これまで基本述語型の三種類の述語、名詞述語・形容詞・動詞について見てきました。そしてそれらの述語と関係する「名詞+助詞」、つまり補語のいろいろな種類を見てきました。ここで、名詞自体について少し考えてみましょう。それから、その名詞の拡張について考えます。

名詞にはいろいろな種類があります。それらは、単に意味的に違うというだけではなく、使い方も違うところがあります。それをまず考えてみます。「代名詞」「数詞」「形式名詞」をとりあげた後、「普通名詞」をさらに分類してみます。

また、補語の名詞の部分には、単一の名詞だけではなく、さまざまな「名詞句」が入ります。名詞句というのは、いくつかの単語が結び付きあって一つのまとまりになり、文の中で名詞と同じ役割を果たすもののことです。
その構造には二種類あります。
1 名詞が対等な関係で「並列」する場合
2 中心になる名詞を他の語句が「修飾」する形
です。

名詞の「並列」には、「本とノート」のように「並列助詞」で結ばれるものと、「本およびノート」のように「接続詞」で結ばれるものがあります。

「修飾」のほうは、名詞文のところで取り上げた「NのN」という形がその例の一つです。それを含め、名詞が名詞を修飾するいくつかの形を取り上げます。 名詞を形容詞が修飾した形、「高い木・元気な人」も全体として名詞句になります。形容詞や連体詞が名詞を修飾する形は、少し後の「10.修飾語」で取り上げます。
修飾される名詞の中には、その名詞の本来の実質的意味が希薄になって機能的な要素に近くなっている「形式名詞」もあります。その主なものは「14.形式名詞」で扱いますが、ここでもいくつか取り上げることにします。そのほかに、名詞に「接辞」がついた名詞句についてもここでかんたんに触れておきます。

では、まず名詞そのものについて見てみましょう。


5.1 名詞の分類
名詞の下位分類を考えます。まず、名詞とは別に分けられることもある代名詞から見てみます。


5.1.1 代名詞
英語の文法では名詞と代名詞を分けますが、日本語ではそうするべきかどうか議論のあるところです。この本では、名詞の中の下位分類の一つとします。文法的には名詞と非常に近いものだからです。
名詞は、
[    ] は [   ] です
[    ] が/を/に/から・・・
[    ] のN
の [    ] の位置に入れることができ、それがまた、名詞を文法的に定義する基準になるわけですが、代名詞もこの条件に当てはまります。文の成分として補語になるという点で名詞と変わりがないのですから、単語の文法上の分類である品詞分類で特に分ける必要はないということになります。で、名詞の中に含めます。(英語などでは、格変化その他で名詞と違う性質をもっているので、名詞とは別にします。)
  
代名詞はさらに「人称代名詞」「指示代名詞」の二つに分けられます。

人称代名詞   わたし、わたくし、おれ、あたし、あなた、かれ・・・ 
指示代名詞   これ、そこ、そいつ、あちら、こっち・・・ 

指示代名詞は、代名詞の一部として他と分けるよりも、「指示語」として一つのグループとして考えた方が、その特徴がはっきりします。(→「15. 指示語」)

日本語の人称代名詞は数が多いのが特徴の一つです。聞き手との関係によって、また話題の人物との関係によって選択されます。また、相手や自分を指す代名詞をあえて使わないという選択もあります。これは敬語や「待遇表現」の問題です。(→「29. 敬語」)

「私・あなた・彼」などの「人称」という概念は、日本語でも「やりもらい動詞(4.4.2) 」や「ムード」のいくつかにかかわってきます。
「私」が「一人称」、「あなた」が「二人称」、「彼」などが「三人称」です。ただし、「あなた」を指すのに「田中さんは・・」とか「先生は」というような言い方もあるので、単に人称代名詞の使い方の問題ではなく、「話し手・聞き手」をどう表すかという問題になります。
日本語の人称代名詞の特徴の一つとして、連体修飾を受けるということがあります。

     このわたし    バカなわたし


5.1.2 数詞
数詞というのは、その名のとおり、数を表す名詞です。二種類あります。
A いち、に、さん、・・・せん、・・・いちまん、・・・
 B ひと、ふた、み、よ、いつ、む、なな、や、ここの、とお
 Aは無限に続きます。Bの「11」以上はAで代用します。
 ここで「ひゃくじゅういち」のようなものをすべて一つの単語とすると、語数が無限にあることになってしまいます。「ひゃく」「じゅう」「いち」をそれぞれ一語とし、「ひゃくじゅういち」は複合語とするわけですが、そうすると、今度は「はっぴゃく」のように音変化のある場合を説明しなければなりません。この本では名詞の「形態論」は取り扱いません。この点は形態論の本を見てください。
なお、数詞に
a.ひとつ、ふたつ、みっつ・・・
b.いちばん、にばん・・・/だいいち、だいに・・・
などを含める本もありますが、aは「数」そのものではなく、ものを数える時に使う「数量詞」と考えます。「とお」より上は数詞を代用します。

bのほうを「序数詞」と呼んで、「いち、に・・・」の「基数詞」と並べることがありますが、これは英語の「one/first 」の対立をそのまま日本語に持ちこんだだけでしょう。「-ばん」は他の「-つ、冊、秒、キロ、度」などと同じく、数詞に付いて数量詞を形作る接辞にすぎません。
本を一冊買いました。
五人の学生が来ました。
この「数量詞」は文法的に特徴のあるものなので、別に取り上げることにします。(→「13.数量表現」)


5.1.3 形式名詞
形式名詞とは、名詞が形式化したもの、という意味です。「形式化」とは、ある品詞がその意味的・文法的性質(の一部)を失って、ある構文を形作るための機能を持つようになることです。
どれを形式名詞と認めるかは説によってかなり違うようです。文法的には重要な役割を持つもので、この本では「14.形式名詞」として特に取り上げて、主なものの用法を説明します。その中で「NのN」という形をとる「場所」と「時間」の表現については、この後の「NのN」の所で取り扱います。


5.1.4 固有名詞
ふつうの名詞との文法的な違いは特になく、意味的な違いによって分けられるものです。英語などでは、冠詞との関係や、常に大文字で書き始めるという規則などがあるために、何が固有名詞なのかということを論じる必要があるのでしょうが、ここでは特に取り上げなくてもいいでしょう。


5.1.5 普通名詞
さて、名詞の中から以上述べてきたものを取り去った残りが、ふつうに名詞と言われるもの、「普通名詞」です。
普通名詞の分類としては、まず「物質名詞・抽象名詞」という分け方をすることがあります。これは、英語などで「数えられるもの」と「数えられないもの」を区別するための「数」という範疇が、冠詞や動詞に関して必要なことに関係した区別でしょう。日本語では、下の「もの」の中の下位分類となります。
それに対して、日本語では次のような分類が文法に関係してきます。(この分類は代名詞や固有名詞にも関わるので、その例もあげておきます。)

ひと   わたし、田中さん、学生、店員、人、だれ 
もの   本、草、雨、動き、悲しさ、存在、これ、もの、何 
ところ   教室、東京、空、第一章、上、あそこ、ところ、どこ 
むき   東、右、後ろ、あちら、こっち、どちら、どっち 
とき   今、明日、1999年、2時、3時間、とき、いつ 
こと   事実、ニュース、計画、失敗、売り切れ、やり直し 

これらを見て、すぐに思い当たったことと思いますが、これらは動詞などの補語を考える時に、
[人]が [もの]を 見る
というような形で、その動詞型に入る名詞の、おおよその意味分類を表す時に使ったものです。

この分類は、分類の基準がいくつかありえ、境界は厳密には決められないものですが、おおよその分類としては有効なもので、ことばの使い方、つまり文法に大きく影響します。
例えば、「ひと」をもう少し広げて「動物」とすると、存在の「ある/いる」の使い分けに関係します。
 また、「水泳する」のは人だけで、「?犬が水泳する」というのは少し奇妙です。動物の場合は「泳ぐ」になります。
「ところ」の名詞は、
[ ] へ行きます。
の[ ]内に入りますが、その他の名詞、例えば[ひと]の名詞は入らないので、
田中先生のところへ行きます。
のように言わなければなりません。これは「5.3.2 Nのトコロ」でもういちど考えます。


5.1.6 動作性の名詞
 上に述べた普通名詞の中で、「動作性」を持つ名詞は文法的に特徴のあるものです。動作性を持つ名詞は、次の二種類に分けられます。
一つは、前にとりあげた「する動詞」を作る名詞です。(→ 4.4.4)
     勉強 洗濯 買い物 入学 留学  
     一般の名詞と違うところがいくつかあります。まず、複文で扱う「目的」の表現「V-に行く、来る、帰る」の動詞の所に入れることができます。もちろん、人の意志的動作を表すものに限りますが。
     図書館へ本を借りに行きます。
     デパートへ買い物に行きます。
 「-中」をつけて、全体として名詞述語になり、その動作が進行していること、またはある状態であることを表せます。(→ 5.6.1)
     営業中(です)     故障中(だ)
 名詞句の中で補語をとることができます。
     この夏は文法を勉強の予定です。
 「文法を」という補語は、当然あとに動詞が来なければなりませんが、ここでは「勉強」という名詞が補語を受けています。

 もう一つの動作性の名詞は、動詞の中立形がそのまま名詞として使われるものの一部です。動詞の中立形による名詞とは次のようなものです。「連用形転成名詞」ということもあります。
  行き  帰り  働き  遊び  読み書き    楽しみ  悲しみ  怒り  喜び  笑い    上り  下り  
 これらは、すでに名詞として固定している感じがしますが、次のようなものはまだ多少動詞性を感じると言えるでしょう。
     その本はもう売り切れです。(本が売り切れた)
     実験のやり直しが必要だ。 (実験をやり直す)



5.2 NのN
以上で名詞そのものの話を一応終り、次にさまざまな名詞句の問題に入ります。まず、名詞が名詞を修飾する形になっている名詞句を見ていきます。

名詞文のところで、「NのN」がさまざまな意味になる例を並べましたが、その構造は考えませんでした。ここでは、それを少し考えてみます。「NのN」の前のNをA、後のNをB、つまり「AのB」と呼ぶことにします。

まず第一は、ふつうの、「Aの」が後の「B」を修飾するものです。
バラの花 私の本 法学部の学生
「AのB」というと、上にも述べたように「AがBを修飾している」と言って説明は終わりになってしまうことが多いのですが、もう少し考えてみましょう。

まず、「修飾」ということの意味です。「修飾」とは何でしょうか。
例えば、本がたくさんある場合に、
1 あなたの本はどれですか。 (私の本は)机の上の本です。
と言って、一冊の本を示すことができます。このように、あるものを他のものから区別して特定するために「机の上の」という「修飾語」が使われることがあります。「限定」あるいは「特定」の働きということができます。
次に、本は一冊しかないのですが、
2 それは私の本です。(さわらないで下さい)
という時は、「私の」本であるという、本の「属性」が問題になっています。ここで言いたいことは、「この本は私のだ、だからさわるな」というようなことでしょう。ここでは、他のものから区別するためというより、それ自体が持っている属性を言いたいための修飾語だ、と言うことができます。

もう一度繰り返すと、例1の「机の上の本」は、何冊かの本の中からある本を特定するために、「机の上の」という修飾語を加えて「本」という言葉が表す範囲をせばめています。それに対して例2の「私の本」は、今ここにある、この「本」が「私の(もの)」という属性を持っていることを特につけたしています。

修飾ということの具体的な内容は、少なくとも上で述べた二つのこと、「限定」または「特定」の働きと、「属性説明」の働きが考えられます。
次に、「修飾」ということでは同じだとも言えるのですが、「Aの」が後の「B」に対して「BはAだ」という意味関係を持っているものを見てみます。
  大学生の息子(息子は大学生だ)
(日本の)首都の東京(東京は首都だ)
兄の一郎と弟の二郎
これは「同格」と呼ばれることがあります。例えば、最初の例で「大学生=息子」と考えるからです。しかし、「大学生」は一人の人間を指しているのではなく、「息子」の属性を表しているだけです。この二つのことばは同じ対象を指しているのではありません。ですから、「同格」というのには賛成できません。
同格というのは、
その大学生、すなわち息子は・・
のような場合ならいいかもしれません。この場合の「その大学生」はある個体を指し示していて、それは「息子」で表されているものと同じだからです。

 次の「首都」の例はまだいいかもしれません。確かに「日本の首都=東京」ですから。しかし、この「AのB」の形が、同格を表すために使われるとは言えません。「Aの」が「B」を修飾している形と考えます。

また、この「の」は「助動詞」の「だ」の「連体形」だ、と言われることもあります。意味的にはそうも言えますが、いちおうここでは助詞としておきます。(この本では「だ」を助動詞とはしていません。)「大学生である息子」とも言えるということは、直接この「の」が「だ」の変化形だという証明にはなりません。

名詞を二つ並べた形の同格については、「5.11 同格」を見てください。

「AのB」のBが動作を意味する、あるいは暗示するような名詞の場合は、Aがその補語となるような意味関係になります。
子どもの自殺(子どもが自殺する)
母親の喜び(母親が喜ぶ)
恋人の贈り物(恋人が贈る)
大統領の暗殺(大統領を暗殺する)
客のもてなし(客をもてなす)
以上は「が」と「を」の場合で、「が・を」は削除されて、「の」だけになります。その他の格助詞の場合は、
恋人への贈り物(恋人に贈る)
親戚からのもらい物(親戚に/から もらう)
学校からの帰り道(学校から帰る)
3時までの安売り(3時まで安く売る)
車での来場(車で会場に来る)
子どもを愛する(子どもへの愛)
教育への信頼感(教育を信頼する)
同僚とのつき合い(同僚とつき合う)
などのように「格助詞+の」となります。「に」はちょっと例外で、「にの」
の形にはならず、意味の近い他の格助詞が「の」の前に来ます。また、「信頼感」のように「を信頼する」が「への信頼感」になる場合もあります。

時や所を示す「に」の場合は、「の」だけになります。
9時の開店(9時に開店する)
演壇の学生(演壇にいる)
さらに、ある動詞をはっきり連想させる名詞でも、似たことが起こります。
駅への道(駅へ行く道) 父への手紙(父へ出す手紙)
駅からの道(駅から来る道) 父からの手紙(父から来た手紙)



5.3 位置を示すNのN
「NのN」の中でも、ふつうのものとはちょっと違った性質のものがあります。後の名詞が位置を示す場合です。


5.3.1 Nの[所]
初級の存在文のところで、次のような表現がよく出されます。
箱の 上/下/中/外/前/後ろ/横/
そば/近く/となり/あいだ(に)
これらは、教育上特に難しいものではありませんが、前に名詞文のところで述べた「NのN」の多くの例とは少し性質が違うので、その点を考えてみます。例えば「私の本」という場合は、「本」を「私の」が「限定」し「修飾」している、ということが素直に受け取れますが、「机の横」と言った場合は、意味的に「机」が「横」を修飾している、とは言いがたいからです。「本」という名詞は、それだけで独立して一つの意味を表し、例えば
これは本です。
本は、借りるものではありません。買うものです。
などのように使うことができます。
一方「横」は、「机の横」のように、ふつう何か他の名詞との関係で使われることばです。
上は人に貸してあります。
などの場合でも、「(この部屋の)上(の部屋)は」という意味で、やはり関係を表す言葉で、独立したものではありません。あるいは、
上の箱には服、下の箱には本が入っています。
という場合も、「(二つの箱の)上の(ほうの)箱」ということで、独立した名詞とは言えません。
ですから、ふつうの
「どこにありますか?」「机の横にあります。」
という例を考えると、「机の横」は「机」を基準にして、ある場所を示す役をしていると言えます。
この場合は、それぞれ独立した二つの名詞(例えば「私」と「本」)の関係ではなく、ある名詞に付いて「場所を示す名詞句を構成する」という機能を、「横」あるいは「の横」が持っているのだ、と考えられます。(ここで、この「の横(に)」に当たるものが英語では「besides」という一つの前置詞で表される、だから・・・・というのは正しい論証の仕方ではありませんが、ついそう言いたくなるところです)

上の例では「に」が使われていますが、もちろん他の助詞も使われます。
木の下で本を読みます。
部屋の外へ出ました。
工場の横を通ります。
箱の中は空でした。
あのビルの隣が郵便局です。
「Nの[所]」全体が名詞を修飾することもできます。「~にある」という意味になります。
駅のそばの本屋 柱の間の空間
「あいだ」は二つの名詞(AとBの間)か複数のものを表わす名詞を必要とする点で、他のものとは違います。
銀行と郵便局の間 建物の間


5.3.2 Nのトコロ
以上の名詞は[所]という性質、いわば空間性をもってある特定の場所を指示する名詞でしたが、その空間性を他の名詞に与えるためだけに使われる名詞があります。「ところ」という名詞です。

「行く・立つ・置く・運ぶ」などの動詞は「[所]へ/に」という補語を必要としますが、[所]名詞でない名詞とこれらの動詞を使いたい場合があります。その場合には、「Nのところ」という形を使います。例文を見てください。
後で私のところへ来てください。
旗のところに人が立っていました。
×後で私へ来て下さい。
×旗に人が立っていました。
階段に人が立っていました。
階段のところに人が立っていました。(階段の前?)
階段の窓のところに人が立っていました。
×階段の窓に人が立っていました。
「私」や「旗」は、人が来たり立ったりする場所にはなりえないので、「~のところ」という形にしなければなりません。ただし、
旗にトンボが止まっていた。
の場合は、「のところ」は必要ではありません。「旗」は「トンボが止まる」場所になりうるからです。
「階段」の例では、「のところ」をつけるかどうかで意味合いが変わってきます。「階段のところ」というと、例えば長い廊下の途中の階段に上がる所、を示すことができます。(→「14.3 ところ」)



5.4 時を示すNのN
5.4.1 Nの[時]
時間の表現についても、場所の名詞句と同じようなことが言えます。
食事の 時・前・時間・直前・直後/間・最中(に)
食事の 後/途中(で)
これらも、「Aの」に修飾される名詞というよりは、「AのB」の形で時を示す表現を作り出すものです。その中でも特に「~の時」が基本的な時間の表現です。
前に「4.15 時を表す助詞」で例にしたような時の名詞なら、
2時に/日曜日に/2時間で
のように、はっきりとある時間の点・長さを表すことができますが、「食事」のような名詞は、「食事に」としてもその時間を示せません。

「食事」や「仕事」は時の名詞ではありませんが、それが表わす事柄は時間の流れの中である位置を占め、その初めと終りがはっきりしていますから、上の「~の時」のような表現をつけることで、その時間を表すことができます。
食事の時にテレビのニュースを見ます。
「休み」のような名詞は、もともとは時の名詞ではありませんが、それ自体がある時間の長さを示すことばですから「に」をつけただけで、
休みに旅行します
のように言うことができます。 「Aの時」以外の「Aの前/後/途中」などの表現は、Aという名詞が示す時間を基準にして、ある時間を示します。

後ろにつく助詞は、時間の一点を示す「に」ですが、「あと」と「途中」はなぜか「で」をつけるのがふつうです。

「途中」は道の途中、つまり空間的な意味が基本にあるので、「場所のデ」の影響があるのでしょうか。ある時点からある時点まで、時間の中を移動する途中の一点で、という意味合いで「で」が使われるのでしょうか。
仕事の途中でじゃまが入った。
食事の途中で、急に彼が立ち上がった。
次の例は空間的な意味の場合です。
家から駅までの道の途中で、交通事故を見ました。
家から駅までの道の途中に、新しいスーパーができました。
後の例の「に」は、もちろん場所の「に」です。
「あと」は「に」をつける場合もあります。
食事の前にも後にも手を洗います。(後でも?)
特に多いのは、「順序を後にする」という意味合いの時の「に」です。
この仕事は食事の後にしましょう。(後で)
あなたは田中さんの後に歌って下さい。(後で)
実験終了の後に残された問題
ほとんど「あとで」と変わらない感じですが、最後の例などは「所に残す」の影響があるようです。「終了の後」は時間的な「後」なのですが。
これらの名詞は、前に来る名詞と後に来る述語に対する制限があります。それを次に見ます。


5.4.2 前に来る名詞の制限
まず、前に来る名詞Aに対して。Aが長さを持った名詞でないと、「あいだ」や「途中」はつけられません。
食事の 時・前・時間・直前・直後/間・最中(に)
食事の 後/途中(で)
?食事の うちに
×開始の 間・途中・最中・うち に
開始の 時・前・直前・直後(に)/後(で)
「食事」はある長さの間続きますから「あいだ・最中」などがつき、またその初めの点・終わりの点があるので、「前・後」などがつけられます。それに対して、下の例の「開始」はある瞬間のことですから、「あいだ・うち」などはつけられません。

逆に、「開始」は「瞬間」をつけられますが、「食事」はつけられません。
実験開始の瞬間に
×食事の瞬間に
「発表」のような名詞は、どちらも言えます。瞬間的な場合と、ある長さを持った場合のどちらも考えられるからです。
発表の 時/前/あいだ/途中/瞬間
「うち」はちょっと特別で、「休みのうちに」とは言いますが、「×食事のうちに」とは言いにくく、はっきり時間を示すことばが必要なようです。
朝/今日/営業時間/上旬 のうちに
一回の授業のうちに、三回も当てられた。
後の例のように、「一回の」のような限定することばをつけるとよくなるようです。
「うち」と「あいだ」は時間の長さを表す名詞が前に来ることができます。
3時間の間、ずっとそこにいました。
これは単に「3時間」と言っても同じですが、「あいだ」をつけたほうが、その長さを強調しています。
1時から4時までの間、ずっとそこにいました。
という言い方もできます。
「~間+うちに」は「~で」と近くなります。
3時間のうちに、全部できますか。(朝のうちに)
3時間で全部できますか。 (×朝で)
前に(→ 4.6.5)「期間+に」は、その後に来る表現が限定されることを述べましたが、「期間+あいだに」や「期間+うちに」は数量の表現とも使えます。
1時間に2回
40分の間に、5千台の車が通りました。(×40分に)
20日の間にひげがずいぶん伸びました。(20日で)
3時間のうちに作文を二つ書きました。 (3時間で)



5.4.3 述語の制限
次に、後ろに来る述語の時間性に対する制限を見てみます。「前」や「時」などは、「に」をつけると、あとに長さを持った述語は来られません。これは「4.15 時を表す助詞」で述べたことと同じです。
?3時に会場にいました。
×3時に本を読んでいました。
×食事の前に、テーブルはきれいでした。
?食事の時に、お酒がたくさん並んでいました。
食事の時、お客さんがたくさんいました。
「は」にするとよくなります。
3時には会場にいました。(会場にもう来ていました)
食事の前は、テーブルはきれいでした。
食事の時(に)は、お酒がたくさん並んでいました。
「限定・対比」の意味が加わるからでしょうか。

「あいだ」は長さを示すので、「に」をつけなければ「長さ」のある述語と使えますが、「に」をつけると、その中のある一点を指すことになるので、使えません。
夏休みの間、ずっと家にいました/旅行していました。
×夏休みの間に、ずっと家にいました/旅行していました。
次の例で「長い小説を読む」には長い時間がかかりますが、「読んだ」となると、その終わりの点を「あいだに」の「に」が示します。
夏休みの間に、長い小説を読みました。


5.4.4 場所と時
前に来る名詞が単なる「物」か、あるいは何らかの動作を示すような、つまり時間の中に位置付けられる名詞かで、その名詞句の意味が変わってきます。例えば、「机の前に」と言えば場所しか示しませんが、「ご飯の前に」には二つの可能性があります。
ご飯の前にみそ汁があります。
(「ご飯」は単なる物、「ご飯の前に」は場所を示す)
ご飯の前に手を洗います。
(「ご飯」は動作を示し、「ご飯の前に」は時間を示す)
魚料理の前に、スープがあります。
(場所でしょうか、出てくる順序でしょうか?)


5.5 割合を示すNのN
 「NのN」の形で割合を示す名詞があります。この表現で特徴的なことは、「AのB」でも「BのA」でも言えることです。
     日本人の大部分/大部分の日本人 は政治に無関心です。
     会員の半分/半分の会員 はその提案に反対でした。
 他に、「ほとんど、一部、3分の1、1割、5%」などもこの形になります。


5.6 N+接辞
名詞に接辞(接尾辞)がついて名詞句となるものがいろいろあります。文法的に問題になるものとして、時間・量・頻度の表現があります。 みな名詞句ですから、
     ~です/~で、/~のN
などの形になります。


5.6.1 N中(ちゅう)だ/の
 動きを表すような意味の名詞について、その動きが継続しているか、その動きの結果としての状態にあることを表します。ちょうど、複合述語の中のアスペクトを表す「V-ている」に似ています。
     今、仕事中です。(仕事をしている)
     営業中の店(営業している)
     故障中(故障している)
     録音中・放映中・執筆中・交渉中
     取り調べ中


5.6.2 N中(ちゅう/じゅう)
a 時間の名詞について、その時間の長さの間を示します。発音が「ちゅう」 となるか、「じゅう」となるかが学習者には難しい問題になります。
     午前ちゅう  ×午前じゅう
     午後じゅう  ×午後ちゅう
     夜じゅう   ×朝ちゅう/じゅう  ×昼ちゅう/じゅう
 「あさ・ひる」はなぜか言えません。「よるじゅう」も「ひとばんじゅう」と言うのがふつうでしょうか。
     一日じゅう   今日じゅう   明日じゅう
     今月ちゅう   今月じゅう
     夏休みちゅう  夏休みじゅう
     1998年ちゅう
     戦時ちゅう   試験期間ちゅう
 「ちゅう」は「そのあいだ」で、それ以外の時間との対比を感じます。
     午前中は、部屋で本を読みました。
     午前中に買い物に行きます。
     夏休みちゅうに一度は旅行したいです。(夏休みの間に)
     試験期間中は、この中に入れません。
 その後に「に」をつけるかどうかで、ちょうど「あいだ」と同じように、その時間の長さ全体を指すか、あるいはその長さの中の一点を指すかが違います。

「じゅう」は「その時間いっぱい」という意味合いがあります。「に」をつけると、「のうちに」と近い意味になります。
     一日中忙しかったです。
     夜じゅう風が吹いていました。
     今日中に終わります。
     夏休みじゅうにこの論文を書き上げたい。(夏休みのうちに)
  b 場所の名詞について、その範囲全体を示します。発音は「じゅう」です。
     家中(いえじゅう)を掃除しました。
     日本中で問題になりました。
     世界中の人々   宇宙中
「宇宙中」は広すぎて言いにくいでしょうか。


5.6.3 Nごと
  名詞は時間・距離などと、集団のようなあるまとまりを表す名詞が来ます。その一つのまとまりのそれぞれに、述語で示されることが起こります。動詞を受ける場合は「複文」としてまたとりあげます。
     30分ごとに体温を測ります。
1キロごとに道に目印を置きました。
     クラスごとに委員を選びます。
     食事ごとにデザートが出ます。
     巡回は30分ごとに一回です。  
     春が来るごとに(→「54. その他の連用節」)



5.6.4 Nおき
 二つの物事があいだにそれだけの時間・距離を置いて離れていることを表します。その物事が存在する時・場所が、長さ、大きさを持ったひとまとまりかどうかで、「Nごと」との違いが出ます。
     三日おきに手紙を出します。(四日ごと)
     (手紙を出す日を数えるかどうか)
     3時間おきにベルが鳴ります。(3時間ごと)
     (ベルが鳴る時間は数に入らない)
     三つおきに検査をします。(四つごとに一つ)
     3メートルおきに警官がいます。
 オリンピックは3年おきか、4年おきかということが話題になります。「開催される期間」は4年おきに来ますが、「開催年」は3年おきです。「うるう年」は、後者と同じです。ただし、この語感は人によって多少違うようです。


5.6.5 Nぶり
 長い時間の後に、あることが起こります。
 三年ぶりに/で 友達に会いました。
お久しぶりです。
×二十分ぶりに/で  
二十年ぶりの優勝


5.6.6 その他
 時間の表現に使われる接辞をいくつかかんたんに紹介しておきます。


[以前・以後]
 「以前」は単独で副詞としても使われますが、他の語の後につけられる用法もよく使われます。
  あの人とは、以前会ったことがあります。
入学以前に教科書をそろえてください。
  十時以前に来ていました。
「以後」も同様で、副詞としての用法と接辞としての用法があります。
     卒業以後、彼とはあっていません。
     電話は8時以後にしてください。
 文脈を受けて、「それ以前・それ以後」という言い方もあります。


[以来・以降]
 「以来」は過去から現在までのことだけを表し、将来のことは表せない点が、他のものと大きく違います。
     (それ)以来、ずっと一人です。
     入社以来、同じ課で働いています。
 「以降」は副詞としては使えません。接辞用法のみです。
     来月以降は、この住所に変わります。
     5時以降は個人の時間です。
    


[前・後]
 「まえ」は「Nの前に」の形をすでにとりあげましたが、名詞に直接ついた形も使われます。
     食事前に一仕事しました。
     2時間前に帰りました。
     2時前に帰りました。
 「今から2時間前」と「2時の少し前」の違いです。 「後」は「あと」と「ご」と「のち」の三つの読み方があるので、学習者にはやっかいです。
     作業後の軽い一杯(ご)
     1時間後にまた会います。(ご/のち/あと)
     1週間後でそのことが明らかになりました。(あと)
「のち」は少し硬い言い方です。


5.7 Nのこと
言語行為、心理関係の動詞・形容詞の中で、「Nのこと」という名詞句をとるものがあります。
いつも遠くの家族(のこと)をおもいます。
急にふるさと(のこと)を思い出しました。
今日のスト(のこと)を忘れていました。
子供たちの将来(のこと)を考えます。
子供たちのことを考えると、悪いことはできません。
彼はいつも自分のことを自慢します。
自分のことを随筆に書きました。
恋人のことを親に話しました。
あなたのことは一生忘れません。
 あなたのことが好きです。
「のこと」は「それに関するいろいろなこと」ぐらいの心持ちでしょうが、使わないとちょっと不自然な感じがする場合、必ず使わなければならない名詞と動詞の組み合わせがあります。
?自分を随筆に書きました。
×恋人を親に話しました。
また、次のような例もあります。
家を調べる:家のことを調べる
 「家を」だと、家そのものの中を物理的に検査する感じで、「家のことを」だと、書類を見て、持ち主とか広さとか築何年とかを知ることのようです。つまり、「家に関すること」です。
 彼女が好きです。
彼女のことが好きです。
はどちらでも同じですが、「りんご」にすると違ってきます。
りんごが好きです。(×りんごのことが好きです)
けれども、「りんごのこと」と言えないわけではありません。
この地方特産のりんごのことを説明した。
これはおそらく「好きだ」の意味の違いによるのでしょう。「(人を)愛する」という精神的な意味と、感情的な「好き嫌い」との違いです。

もう一つ、違った文型で使われる「Nのこと」があります。
ナ形容詞とは形容動詞のことです。
「NとはNのことだ」の形で、定義・説明に使われる文型です。  
5.8 NというN
この形がよく話題として取り上げられるのは、次のような場合です。
1 さっき、山田さんが来ました。
2 さっき、山田さんという人が来ました。
1のほうは、話し手は「山田さん」を知っているが、2の場合は初めて会った場合だ、という違いがある、というのです。
上の例ではそうなのですが、次の例では話し手はそれをよく知っていて、反対に聞き手のほうが知らないだろう、と考えて「という」を使っています。
私の友達に山田山男さんという人がいます。
結局、「という」は前の名詞を後の名詞の名称として導入する働きを持っている、ということになります。わざわざ名前を「導入」(新しく持ち出す)ということが、文脈によって「知らない」ことを暗示します。同じ
山田さんという人を知っていますか。
でも、話し手が知らない場合は「知っていたら、どんな人か教えてください」という意味になりますし、話し手が知っている場合は「あなたも知っていると話が早いんだが、」という意味合いになることもあります。

では、「という」の前の名詞が、明らかに誰でも知っているような名詞の場合に、わざわざ「という」を付ける理由は何でしょうか。
まったく、東京という町はすごい町ですね。
この地球という星は、いま危機に瀕しています。
コンピューターという機械は本当はとても単純な機械です。
これらは、「東京は」「この地球は」「コンピューターは」としても、はっきりした意味の違いは感じられません。これらの例は、「という」の前の名詞を聞き手に強く印象づけるためにちょっと間を持たせているような用法だ、とでも言うしかないでしょう。ただし、これを「強調」として説明してしまうのは感心しません。

「AというB」のBは、Aがどんな種類の名詞かを示す働きがあります。
AというBを知っていますか。
のAに「アンドラ・アルゴン・アネモネ・アブサン」を入れると、Bはそれぞれ「国・元素・花・お酒」(またはそれに類する名詞)になります。また、
ワシントンというアメリカの  について調べています。
の場合は、「大統領」か「都市」かで違ってきます。このように「という」の後の名詞は、前の名詞の枠を示します。

このような名詞の分類の最も大きなものが、「もの・こと・ところ」などです。とくに「もの」は広く、抽象名詞も「もの」です。
人生/恋/真実 というものは、わからないものです。
生きるということは、一体なんでしょうか。
東京というところは、まったくひどいところです。
「ところ」の前に来る名詞はわかりやすいでしょう。場所を表わす名詞です。しかし、「日本というところは」というより「日本という国は」のほうがいいでしょうから、正確な使い分けはなかなか難しいようです。

「こと」は述語、あるいは文相当の内容の場合に使われます。ですから、これは「複文」になります。これらの「こと」は複文の「名詞節・連体節」の所でまた取り上げます。
愛するということは信頼するということです。
お金がないということはバスに乗れないということです。
「もの」と「こと」の使い分けは少々複雑です。例えば、「病気」は「もの」ですが、「病気だ」は「こと」です。
病気というものは永久になくならないでしょう。
病気だということは、出席できないということですね。
 両方使える場合もあります。
失敗というものは、避けられません。
失敗ということから、多くを学びました。
 上の「失敗」は一般的な意味合いで、下のほうは個別的な、実際にあったことという意味を感じます。この「こと」は「経験」に近いでしょう。しかし、「経験」自体は「もの」です。(「失敗という経験」「経験というもの」)

「Nというの」はその言葉の意味の分類というより、その言葉そのものを示します。
シラバスというのは何ですか。
就学生というのは、厳密には留学生とは違います。
この形は「定義」の文型としても使われます。
正三角形というのは三辺の長さの等しい三角形(のこと)です。
Aと(いうの)はB(の)ことです。
「という」が文相当(「節」)のものを受ける場合については、上でもちょっと触れましたが、複文のところでまた扱うことになります。(→「56.連体節」)
くだけた話しことばでは、「~って(いう)」の形が使われます。
 お前って(いう)やつは、ほんとにおっちょこちょいだなあ。
 さっき山田って(いう)人がたずねてきたよ。
 表計算ソフトって(いうのは)、何のこと?
かわいそうってことは、ほれたってことよ。


5.9 並列助詞
名詞を同列に並べる時に使う助詞を並列助詞といいます。その、名詞が並んだ形全体が、文の中で一つの名詞と同じように働きます。それを「名詞句」と言います。例えば、「AとB」は「名詞+並列助詞+名詞」で、全体が一つの名詞のようになり、その後に「が・を・に・の」などの格助詞や「は・も」がつきます。
AとBがV いすと机があります。
AとBをV 本とノートを買います。
AとBのN 私と夫の子ども
AとBはNです これとあれは英語の辞書です。
NはAとBです 英語の辞書はこれとあれです。
「AとBが~」は「Aが~」と「Bが~」を合わせた意味になります。
いすがあります・机があります → いすと机があります
ただし、「AとBの~」の場合はちょっと複雑です。
太郎と花子の娘 (太郎と花子が夫婦の場合と別の場合)
太郎と二郎の娘(たち) (子供はそれぞれにある・必ず複数)
これは、補語の「Nと」の話の中に出た問題と性質の近いものです。
太郎と花子が結婚した。(ふつう、二人は夫婦。別々の場合も)
太郎と二郎が結婚した。(兄弟の中ではこの二人が、という場合)
この構造には、さらにもう一つの可能性があります。
太郎と、二郎の娘が遊んでいました。
つまり「[太郎と二郎]の娘」なのか、「[太郎]と[二郎の娘]」なのか、という違いです。これらのあいまいさは、ふつう文脈で明らかになっているはずです。そうでないと、誤解が起こるかもしれません。

初めからずいぶん面倒な話になってしまいました。基本的な例文を出しましょう。並列助詞の中で、よく使われるのは「と・や・か」の三つでしょう。
東京、横浜、大阪、名古屋が人口2百万人以上の都市です。
東京と横浜は人口が3百万人以上です。
札幌や神戸(など)は百万人台です。
仙台か千葉が近い将来百万人になるでしょう。
初めの例は並列助詞を使わない例です。ただ並べ上げ、読点「、」を打っています。これは「AとB(とC・・・・)」と近い意味になります。上の例では、「2百万人以上」はこの4都市だけです。

「AとB」は「AとBと」の形もありますが、ふつうは後ろの「と」は省かれます。三つ以上並べあげてもかまいません。次の「や」との違いは、基本的に省略をしないですべて並べる、という点です。上の例では、「東京と横浜」以外はそうでない、ということになります。ですから、たくさんある場合は、次の「や」を使います。

「や」はいくつかのものの中から例をあげる、という意味合いがあります。上の例で言えば、「百万人台」の都市は他にもあるのですが、その中の代表として「札幌・神戸」が出されています。後ろに「など」が来ることが多いのも特徴です。ただし、人の場合には「など」は使わない方がいいようです。
田中さんや山田さんと話をした。
?田中さんや山田さんなどと話をした。
田中や山田などと話をするな。(あんなやつらと)
「など」がもっている、それらを軽く、低く見るという意味合いが出てしまうからです。
読点を打つだけの場合も、後に「など」をつけると、この「や」の意味に近くなります。つまり、それ以外にもあるということになります。
東京、横浜、大阪などが人口2百万人以上の都市です。
「か」はそれらの中の一つが以下のことに該当する、という意味です。「AかBか(が)」の形にもなりますが、助詞がつく場合は後ろの「か」はない方がふつうです。
選択の意味になるので、そのような場合によく使われます。
土曜か日曜に行きます。
コーヒーか紅茶をください。
コーヒーか紅茶か、どちらになさいますか。
最後の例の場合は後ろの「か」があったほうが自然です。
並列助詞にはこの他に「とか・に・やら・なり」がありますが、使用頻度は低くなります。
「とか」は「や」に近く、他にもそのようなものがある中で、いくつかのものを例としてあげる、という意味合いです。
アンアンとかノンノとか、女性の雑誌がいろいろあります。
好きな女優は、松坂小百合とか、吉永慶子とか、・・・。
「に」は一つ一つ数え上げる感じがあります。
おせんにキャラメル、ビールにアイスクリーム、・・・・
えーと、他には、加藤に佐藤に、それから、飯野も、・・・
二つのものが対になるものを言う場合もあります。上の「おせんに・・・・」はその意味合いもあります。
梅にうぐいす ネクタイにスーツ
「やら」は他にもあることと、全体の数が多い感じがあります。人には使いにくいでしょう。
賞品やらお祝いやら、いろいろいただきました。
  あの時は、コップやら、お皿やら、みんな床に落ちてしまって、大変でした。
 ?大山やら、中山やら、小山やら、変なやつがたくさん来た。
「なり」はいくつか例を示し、その中の一つ、という意味です。
新聞なり、雑誌なり、好きなものを何か読んでみましょう。
課長なり、部長なりが何とかするよ。
以上の並列助詞のうちのいくつかは、述語を受けて「複文」を作ることがあります。それについては、「56.その他の複文」を見て下さい。


5.10 名詞をつなぐ接続詞
一般の接続詞は文と文をつなぐものですから、この本ではいちばん後ろで扱うことになりますが、ここで取り上げる接続詞は、名詞と名詞を並列的につなぐものです。
それでは、上に述べた並列助詞とどう違うのか、という疑問が出ます。その違いは、接続詞はそれだけで独立した言葉とみなされるが、助詞はそうではなくて、他の言葉に付属する語である、という点です。しかし、その働きという点では明らかによく似たものです。
ある文法書では並列助詞のことを「並列接続助詞」(これに対するのは従属接続助詞)と言っていますが、いい分類のしかただと思います。
東京および横浜
  東京ならびに横浜
東京あるいは横浜
  東京または横浜
みな、並列助詞と比べるとかなり硬い言い方で、論文調の書き言葉という感じがします。また、「と」などと違って、二つだけを取り上げるという点も違います。
?東京および横浜および大阪
  東京、横浜、および大阪
ちょっと性質は違いますが、次のようなものも並列といえるでしょう。
日本の首都、つまり東京は・・・・
原子力発電所、いわゆるゲンパツが・・・・
 二つの名詞が同じものをさすという点で、次の「同格」に似てきます。


5.11 同格
 名詞を二つ並べた形で、その二つが同じものをさす場合があります。
     我々日本人
     日本の首都東京
     花の都パリ
 このような二つの名詞の関係を「同格」と呼ぶことにします。 これらの二つの名詞の順番は、逆にはできません。
    ×日本人我々
    ×東京(日本の)首都
    ×パリ花の都
 同格の二つの名詞A・Bの関係にはいくつかの種類があります。 一つは、Aが人称代名詞で、Bの名詞を指すものである場合です。
     我々日本人は~
     私(わたくし)山田太郎は~
     彼ら十代の若者は~
 あいだに「つまり/すなわち」を入れることができます。その場合は逆に言うこともできます。
     日本人、つまり我々は~
     我々、つまり日本人は~
もちろん、どれがより自然かという違いはあります。
 次に、AがBのある特徴的な属性、あるいは別称を表している場合です。
     日本の首都東京     政治家田中角栄 
     男寅次郎        征服王アレキサンダー
     百獣の王ライオン    花の都パリ
 これらは、「BはAだ」と言える関係にあります。
     東京は(日本の)首都だ
     パリは花の都だ
したがって、「AであるB」と言うことができます。
     政治家である田中角栄
     百獣の王であるライオン
 最後に、翻訳語の関係にある二つの名詞です。
     アパルトヘイト、人種隔離は~
     ユニセフ、国連児童基金の本部は~
 これらは、「つまり/すなわち」をあいだに入れることができます。 また、二つの名詞を入れ換えることができます。
     国連児童基金、ユニセフの本部は~
 次のようにかっこの中に入れて、補足説明の形にすることもできます。
     ユニセフ(国連児童基金)の本部は~


参考文献鈴木康之1987「「名詞の-名詞」というとき」『国文学』1987.2至文堂
渡邊ゆかり2000「直喩を表す「体言句X+のような+体言句Y」の意味特徴」『日本語教育』105
張麟声2001「「(の)中」の基本的意味とその分布について」『日本語教育』108
安藤淑子2001「中級レベルの作文に見られる並立助詞「や」の問題点」『日本語教育』108
池上素子2000「「~化」について-学会誌コーパスの分析から-」『日本語教育』106
菅野宏「接頭語・接尾語」
古賀知子1989「コミュニケーションに及ぼす接尾辞「さ・み」の語感論理の働きについて」『九州大学留学生教育センター紀要』1
清水邦子1978「接尾語-「み」と「さ」を中心に」『ILT News』64早稲田大学語学研究所
水野義道1985「接尾的要素「-性」「-化」の日中対照研究」『待兼山論叢』14大阪大学文学部
水野義道「漢語の接尾的要素「~中」について」『日本語学』明治書院
吉川「「覚え書き」から 形容詞語幹+接続語み型名詞について」学友会?
遠藤織枝1984「接尾語「的」の意味と用法」『日本語教育』53
大野早苗2000「日本語の代名詞の用法について-指示対照とその属性についての認識を観点に-」『日本語教育』105
王淑琴2000「接尾辞「的」の意味と「的」が付く語基との関係について-名詞修飾の場合-」『日本語教育』104
小林幸江1996「[同格]をめぐって」『東京外国語大学留学生日本語教育センター論集 第22号』
池田英喜1995「NトN(ト)」と「NヤN」宮島他編『類義上』くろしお出版
高橋太郎「形式名詞についてのおぼえがき」
宮島達夫1997「ヒト名詞の意味とアスペクト・テンス」『日本語文法 体系と方法』ひつじ書房
籾山洋介1991「修飾語句を伴わない「モノ」の意味・用法『言語文化論集』ⅩⅢ 1号名古屋大学言語文化部
奥津敬一郎 「複合名詞の生成文法」
西尾寅弥 「動詞連用形の名詞化に関する一考察」
仁田義雄 「日本語名詞の数概念の表示について」
ゆもとしょうなん「あわせ名詞の構造-n+nのタイプの和語名詞のばあい-」
Seiichi Makino「Nominal Compound」
渡辺実1995「所と時の指定に関わる語の幾つか」『国語学』181
岡本牧子1997「「~おきに・・・」の解釈と日本語教育での取り扱い方」『日本語教育』92
江田すみれ1987「「名詞+のこと」の意味と用法について-「について」とのかかわり-」『日本語教育』62
長友文子1999「「の」による名詞省略について-日本人に対するアンケート調査を基に-」『日本語教育』101

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